運命
3
遠くでなにか煩い音がする。
「う……ん」
『そなた次は頑張りなされよ』
しわがれた声が聞こえた気がした。
「誰?」
自分の発した声で、現実へと意識が戻ってくる。長い長い夢を見ていたような。
私は鳴り続けているスマホのアラームを止めた。
欠伸をひとつして起き上がる。そして気が付いた。部屋が違う? 壁にかけていたスーツはどこに?
変だ。何か大切なことを忘れているような。
私は自分が手を強く握りしめてるのに気付いた。
この手の中には何かがあった。
丸い玉のようなもの。その前には。かなり物騒な……。
思い出そうとすると目の前が真っ赤になった。
紅。紅。紅。
この醜悪な紅い色は……?
「痛っ」
頭痛がする。視界が一瞬テレビの砂嵐のようになる。
記憶が。蘇ってくる。
血だまりの中にいる自分。血塗られた包丁。そして。横たわるのは。
和也!
「あ! あああああ!」
そう、そうだ! 私はまた殺したんだ。愛する夫を。そしてもう一度願いを叶える玉に願ったのだ!
願いは叶ったの?
今日はいつなの?
スマホを見ると十一年前の五月十七日だった。今日の予定、合コンとあった。
夫の和也と出会った合コンの日ね、きっと。
私は二回もこの手で和也を殺してしまった。
二度目も合コンに行ってしまい、結局和也と出会ってしまった。そして、あの結末。
だったら、合コンに行くのをやめれば和也との未来は無くなるわよね?
二度目は和也の性格を考慮したうえで私なりに手を打ったつもりだった。それでも結果は変わらなかった。もうあんな思いはしたくない。和也には遭わなくていい。否。遭ってはならない。
私は幹事の鈴菜に電話をした。
「ごめん。風邪ひいたみたいで、熱が三十九度あるの」
「えー? 彩美、ほんと!? 彩美来ないと盛り上がらないよ」
「ごめんごめん。ちょっと本当にきついから勘弁して」
「仕方ないね〜。りょーかい~。お大事にね」
前回はクローゼットの中で最も地味な服を着ていったけれど、和也に声をかけられてしまったのを覚えている。
「彩美さんってそれ、普段着? でも俺、そういう飾らない女性好きだな」
そう言われたとき、また私は和也に恋してしまったのだった。和也以外の男性に目を向けようとしたけれど和也だけが輝いて見えてしまった。
あの老婆に言われたことは嘘ではなかったのに。
私は軽く下唇を噛んだ。自分の軽率さを呪った。そして、自分が二度も殺人を犯したことを悔やんだ。自分はこんなにも恐ろしい人間だったのだ。
でも、そう。和也と会わなければ問題ない。
私にはきっと違う未来が待っている。
それでも心のどこかで和也と幸せになりたかったと思っている自分がいて、私はそれを振り払うようにもう一度布団を目深に被った。
「う……ん」
『そなた次は頑張りなされよ』
しわがれた声が聞こえた気がした。
「誰?」
自分の発した声で、現実へと意識が戻ってくる。長い長い夢を見ていたような。
私は鳴り続けているスマホのアラームを止めた。
欠伸をひとつして起き上がる。そして気が付いた。部屋が違う? 壁にかけていたスーツはどこに?
変だ。何か大切なことを忘れているような。
私は自分が手を強く握りしめてるのに気付いた。
この手の中には何かがあった。
丸い玉のようなもの。その前には。かなり物騒な……。
思い出そうとすると目の前が真っ赤になった。
紅。紅。紅。
この醜悪な紅い色は……?
「痛っ」
頭痛がする。視界が一瞬テレビの砂嵐のようになる。
記憶が。蘇ってくる。
血だまりの中にいる自分。血塗られた包丁。そして。横たわるのは。
和也!
「あ! あああああ!」
そう、そうだ! 私はまた殺したんだ。愛する夫を。そしてもう一度願いを叶える玉に願ったのだ!
願いは叶ったの?
今日はいつなの?
スマホを見ると十一年前の五月十七日だった。今日の予定、合コンとあった。
夫の和也と出会った合コンの日ね、きっと。
私は二回もこの手で和也を殺してしまった。
二度目も合コンに行ってしまい、結局和也と出会ってしまった。そして、あの結末。
だったら、合コンに行くのをやめれば和也との未来は無くなるわよね?
二度目は和也の性格を考慮したうえで私なりに手を打ったつもりだった。それでも結果は変わらなかった。もうあんな思いはしたくない。和也には遭わなくていい。否。遭ってはならない。
私は幹事の鈴菜に電話をした。
「ごめん。風邪ひいたみたいで、熱が三十九度あるの」
「えー? 彩美、ほんと!? 彩美来ないと盛り上がらないよ」
「ごめんごめん。ちょっと本当にきついから勘弁して」
「仕方ないね〜。りょーかい~。お大事にね」
前回はクローゼットの中で最も地味な服を着ていったけれど、和也に声をかけられてしまったのを覚えている。
「彩美さんってそれ、普段着? でも俺、そういう飾らない女性好きだな」
そう言われたとき、また私は和也に恋してしまったのだった。和也以外の男性に目を向けようとしたけれど和也だけが輝いて見えてしまった。
あの老婆に言われたことは嘘ではなかったのに。
私は軽く下唇を噛んだ。自分の軽率さを呪った。そして、自分が二度も殺人を犯したことを悔やんだ。自分はこんなにも恐ろしい人間だったのだ。
でも、そう。和也と会わなければ問題ない。
私にはきっと違う未来が待っている。
それでも心のどこかで和也と幸せになりたかったと思っている自分がいて、私はそれを振り払うようにもう一度布団を目深に被った。