ふたりだけの秘密、甘いこと。






撮影当日。心臓がばくばくと鳴っているわたしに、ふいに言葉がかけられた。




「ーーののか」



相変わらず透き通ったよく通る声に、はっとさせられた。


“ののか”と呼ぶ声色は優しく聞こえて……恐ろしく、冷たく耳に溶かし込まれる。



……怒ってる。



原因はとっても良く理解している。

だけどそれは自分のためでもあり、琉唯くんのためでもあって。

琉唯くんが、彼の好きな人と以外噂されるのを防ぐため。


ーーーだから。



「……っお久しぶりです、わたし清水さんから呼ばれているので……っ」



「ーー……」



ちらりと姿を捉えて、目を合わせずにすぐに俯く。

手を伸ばされて、捕まえられる前にその場から逃げ出した。


……結局は、やっぱり自分が傷つきたくないだけ。苦しくなりたくないだけなんだ。



わたしが避けて避けて避けまくっていた琉唯くんは、少し寂しい色と、鋭い氷を閉じ込めた瞳をしていた。





清水さんに呼ばれているので、というのはまっぴらの嘘。


すぐに楽屋に逃げ込んだ。



「ーーっはあ、は……」



……久しぶりの、琉唯くん。



思わず高鳴りそうになった胸をぎゅっと押さえて、どくどくと激しくなる鼓動を抑えて。



……やっぱり、だめだ。



何で今現れるの。もう少し待ってよ。



「…っ忘れられないじゃん……っ、」



ひどく、胸は速く音を刻んでいるままだった。



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