やっぱり中身で勝負
ある時、向こうから婆ちゃんと楽しそうに話しながら、沙緒里ちゃんが連れて来てくれた事があった。
「婆ちゃん!!」
「あ、一郎ちゃん」
「あ、戸山くん。
今ね、戸山くんのお家へお婆ちゃんを送って行くところだったの」
「寺田さん、ありがとう。家族で婆ちゃんを探してたんだわ」
「そうだったんだ。電話したら良かったね。ごめんなさい。」
「ごめんなさい…」
「婆ちゃん、どこへ行ってたんだよ!みんな心配してたんだぞ!」
「ごめんなさい。すみません。ご迷惑をお掛け致しました。」と婆ちゃんがオレに必死で謝ってきた。
「あのね、戸山くん、お婆ちゃんは公園でお花を摘んでいて、その…背中のメッセージを見たからお話しながら送って行こうと思ったの。ごめんね」
「いや、オレもごめん。婆ちゃんが心配だったからつい、大声を出しちゃって…」
「大丈夫ですよ! 私がお花を持って来たので!」と婆ちゃんは訳の分からない事を言いだした。
「そうでしたね! 綺麗なお花だと皆さん喜びますもんね。」と沙緒里ちゃんが婆ちゃんの話に合わせてくれた。
「そうなのよ〜。主人も子ども達も皆んな喜ぶの」と婆ちゃんはニコニコしている。
爺ちゃんはとうの昔に亡くなってるのに…はぁ〜
「寺田さん、ありがとう。ここからはオレが連れて帰るから。本当にありがとう」
「うん。じゃあ気をつけてね!また明日学校でね戸山くん。 お婆ちゃん、今日は楽しかったです。またお話聞かせて下さいね。」
と寺田さんは笑顔で婆ちゃんとオレに手を振ってくれた。
その笑顔は天使だった。
オレは学校では大人しい寺田 沙緒里ちゃんが気になる存在になり、彼女の事が好きだと気がついた。
それがオレの初恋だった。
婆ちゃんはその後も何度もいなくなった。
ある時、途中で転んだらしく足を骨折して動けなくなり、体力も弱って、最後は養護老人ホームで亡くなった。