やっぱり中身で勝負

寺田 沙緒里

数日後

今日からお母さんの抗がん治療がスタートする。

実は、病院に母の事を相談したら、病棟勤務から外来勤務にへ替えてもらえた。

亡くなったお父さんとお母さんの担当医が院長先生だったのもあって、うちの事情をくんでくれ、抗がん治療に合わせて有給も取れるようにもしてもらった。
本当に有り難かった。

病院で点滴を終え、病院の入口でタクシーで帰ろうと思っていたのにタクシーが1台もいない。

「お母さん、タクシーくるまでこのベンチに座ってよう。」

「うん、いつもは何台も停まってるのに珍しいね」

「うん。寒くない?」

「大丈夫よ。ありがとう」

「寺田さん?」と後ろから声をかけられて振り向いた沙緒里。

「あ、戸山くん! お父さんのお見舞い?」

「ああ、今、様子みて帰るところなんだ。
あ、寺田さんのお母さん?」

「うん。お母さん、戸山一郎くん。中学生の同級生なんだよ」

「戸山一郎くん? あ、戸山さんのお母さんとPTAでご一緒してお世話になったんですよ〜。
お母さんはお元気ですか?」

「はい。元気です。」

「戸山くん。お父さんの手術はどうだったの?」

「うん。無事に成功してあと10日くらいで退院らしいよ」

「良かったね。」

「うん。ありがとう… ところで寺田さんはどうしたの?」

「タクシー待ちなの」

「え、あ、1台もいないね〜 帰えり道の途中だしオレが送ってあげるよ」

「え、でも…」

「すみません。お願いしてもよろしいですか」とお母さんが言い出した。

「お母さん…」

「はい。じゃあ駐車場からここへ車を回しますからもう少しここで待っていて下さい」と戸山くんは駐車場へ走って行った。
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