愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー
❇︎❇︎❇︎❇︎

 疲れからだろう、シャンガの振るった剣は用意した的ではなく、隣の大岩に吸い込まれるようにぶつかって。

 ガキイィィン。

 耳障りかつ、剣の刃が心配になる不穏な音を立てた。
 岩の硬さからくる振動に耐えきれず、剣の柄を取り落としてしまう。
 やけになって、シャンガは膝を屈し、そのまま後ろへ大の字に倒れた。

 青空をカンバスに、ほわりと長閑な羊雲が明日の方角へ移動していく。

 ゼウラが出奔してから、シャンガはがむしゃらに剣の修行をした。
 この修行の目的は『  』──まだ言葉にしたくない。
 手の甲を目元に持ってきて、シャンガは懊悩(おうのう)が一緒に出ていって少しでも減らないかと、息を深く吐く。

 師が起こした凶行で村は悲嘆に滴り落ちて、未来と形を失っていった。
 
 シャンガが悪いわけではないが、それでも顔も見たくない。というのが村民の気持ちで、シャンガはそれを汲み、愛し、育ててくれた村へ最後にできる感謝として、去った。

 山野の獣と同じ、露天に眠り、剣の鍛錬をして、そしてゼウラの足跡を追っている。
 山二つ超えた先の村でも、ゼウラが出身地で起こしたのと同様のことをしたと聞いて、追わないとならない、と確信した。
 単に自分の村で行っただけかと思ったが、あれは手始めだったのだ。

 ゼウラは何かを為すために、人としての道を踏み外してしまった。まだやり続けるのなら、止めなくてはならない。

 それが、彼に育てられ、彼を家族と思い愛するシャンガの責任だ。
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