愛しい師よ、あなただけは私がこの手で殺めなければー大賢者と女剣士の果しあいー
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 シャンガが大概の家事ができるほど育ち、かといって大人と呼ぶにはまだ早かった時分。
 村に大きな水害が起こり、人の被害は少なく済んだが後片付けに難儀した。

 ゼウラは魔法で大きな流木や岩をどけたり、土を流す水を出したりとよく村人を助けた。
 その傍でシャンガといえば。
 ものを浮かせようにも石くらいしか無理で、それよりは自分の体を動かした方が役に立つ。
 師匠譲りの魔法ではなく、体力で貢献する姿に、村人は感謝しつつも呆れているようだった。
 
 夕飯の席でシャンガは師に詫びる。

「……すみません。師匠がたくさん教えてくれたのに、私、魔法はからっきしで」
「なんじゃ、あらたまって。いつも言っておるじゃろ、魔法は適正で伸びるかが決まってしまうからの。合わんもんは合わん、気にせんことじゃ」
「でも私は大賢者ゼウラの弟子なのに。たった一人の弟子なのにこんな有様では。みんな内心では『ゼウラの弟子の座はもっと魔力に恵まれた人材に譲った方がいい』って思っているんじゃないかな」

 シャンガはスープを口に運ぶ手を止めてしまった。ゼウラがとても厳しい目つきをしている。

「儂は魔力の多寡で弟子を決めん。それに、もう老いたからの。若い頃には後進を育てようとやっきになった時期もあったが、それも全て巣立たせて、隠居したんじゃから。他の弟子はもういらぬ……儂の弟子ならお前が最後じゃ、シャンガ」
「師匠ほどの人が、もったいない」

 ふるりと首を左右にし、ゼウラは口元をほころばせる。

「教えた魔法がのびなかろうと、シャンガはシャンガ。弟子というても、儂がお主に教えられることは魔法だけではない。儂が一番使うのが魔法だからといってお主もそうでなければならんなど、とんだ見込み違いじゃ。お主は……ちゃんばらの方が向いておるようじゃし?」

 つい顔を伏せてしまった。師が魔法を使う時の杖代わりにしている剣。納屋にあったその予備を、シャンガはこっそり振るっていた。
 実を言うと、あんなに時間を割いて教えてもらった魔法より、剣の方が性分にあっていた。
 師の目を忍んでわずかの時間しかかけていないのに、メキメキとできることが増えるのだ。
 シャンガは村の子どもたち一に体が頑強で、力も見合って強かったから。

 テーブルを立って食器を片付けたゼウラは、長ものを携え戻ってきた。
 流星を地上に留めたような、銀に煌めく一振りの剣。

「ゼウラ師匠……? これは」
「お主用にあつらえてもらっていたものじゃ。いつまでも儂の予備ではな。長すぎるじゃろ? ……それで、明日から剣をふるってみるのじゃ、儂が見よう」

 支えた両手にかかる重さが誇らしい。
 輝く刀身がシャンガを映すのが嬉しい。

「ありがとう……ございます師匠! 私、大切にします」
「大切にするばかりでは、それで、修行もしてもらわんとの」
「はい……はいっ」

 夜、シャンガは剣を抱いてベッドに入った。
 滑らかな鞘を撫で、銀の光を放つ柄に口づける。
 翌日からゼウラに剣の稽古をつけてもらえる期待に胸膨らませ、幸せをブランケットの中に閉じこめた。
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