恋は秘密のその先に
「何だか末娘を嫁に出す気分だなあ」

デスクの私物をまとめている真里亜に、部長が感慨深げに声をかけてくる。

「本当ですよね。まさか、真里亜に先を越されるとは…」
「まだまだお子様だと思ってたのに。いつの間にかこんなに大人に…」

先輩達の言葉を、真里亜は慌てて否定する。

「あの、別に私、嫁になんて行きませんよ?」

すると藤田も声をかけてきた。

「ちゃんと夫婦別姓にしてもらえよ?まあ、天城 真里亜もそれはそれでいいけどな」
「確かにね。天の城のマリア、なかなかいいわね」

うんうんと頷いている皆に、真里亜はまた声を上げる。

「ですから、違いますって!副社長は、どこかのご立派なご令嬢と結婚されるに決まってるじゃないですか。AMAGIの次期社長なんですからね。私はお二人が上手くいくように、お相手の方と副社長を見守っていきます」

紙袋にデスクの中の物を移しながら、真里亜は真面目に語る。

「やだー、真里亜。なんか、ばあやみたいね」
「ホント!もしくは仲人さん?」

先輩達はクスクスと笑ってから、真顔に戻った。

「とにかく!真里亜、あっちでも元気でね」
「いつでも顔出しに来てね」
「先輩…」

真里亜は目が潤んでしまう。

「そうだぞ。いつまでも皆で末っ子アベ・マリアを見守っているからな」
「部長…」

最後に藤田が、真里亜の肩をポンと叩いた。

「がんばれよ!俺も必ずあとから行く。待っててくれ」
「うん!いつか絶対一緒に仕事しようね」
「ああ、約束する」

たくさんの笑顔に見送られ、真里亜は感激で胸をいっぱいにさせながら人事部をあとにした。
< 103 / 172 >

この作品をシェア

pagetop