恋は秘密のその先に
ホテルのロビーを横切りエレベーターで部屋に向かうと、文哉と真里亜の部屋は隣同士で、広々としたダブルベッドの部屋だった。

窓からは、ニューヨークの景色が一望出来る。

「わあ、素敵」

荷物の整理を終えた真里亜が、しばらく外を眺めていると、コンコンとノックの音がした。

「はい…って、ん?」

ノックの音は入口のドアではなく、ベッドの横にあるドアから聞こえてきた。

(何?このドア)

そう思いながら開けてみると、コートを脱いでラフな私服に着替えた文哉が立っていた。

「副社長!どこにいるんですか?」
「ん?俺の部屋」

え?と、真里亜は文哉の背後を覗き込む。

そこには真里亜の部屋と同じ光景が広がっていた。

「このドア、副社長の部屋と繋がってるんですか?」
「そうらしいな。コネクティングルームだろう」
「へえ…って、ちょっと待ってください」

真里亜は、手をかけていたドアノブを確かめる。

「あ、良かった。ちゃんと鍵がついてる」
「分からんぞ?壊れてるかもしれん。アメリカのホテルでは結構よくある」
「ええ?!」
「安心しろ。誰もお前を襲ったりせん」
「ひっどーい!いいもん。もう絶対にこのドア開けませんから」
「分かった。ゴキブリが出ても幽霊が出ても、絶対お前の部屋には入らないようにする」

え…と、途端に真里亜は泣きそうな顔になる。

「あの、やっぱり鍵、開けておきます。何かあったらすぐ助けてくださいね?」
「調子いいな、まったく」

文哉はやれやれと両腕を組む。

「それより、腹減ってないか?」
「あ、空きました」
「じゃあ、散歩がてら食べに行こうか。時差ボケは平気か?」
「はい。ファーストクラスの飛行機は、自宅よりぐっすり眠れましたから」
「ははは!確かに。大いびきかいてたもんな」
「う、嘘でしょ?!」
「ほら、早く着替えて支度しろ」

そう言って文哉はバタンとドアを閉めた。
< 109 / 172 >

この作品をシェア

pagetop