恋は秘密のその先に
コンコン、とノックの音がして目が覚める。

「…副社長?」

目をこすりながら身体を起こし、ベッドの横のドアを見た時、またノックの音がした。

「あれ?このドアじゃない。入り口のドア?」

真里亜はベッドから降りると、ドアのチェーンを掛けてから少し開いてみた。

ハーイ!と、ホテルのスタッフの女性がにこやかに立っている。

ハイ!と返事をしたものの、その後にペラペラーッと続く英語が聞き取れない。

だがそのスタッフは、真里亜に紙袋を手渡すと、Have a nice day!と笑顔で去って行った。

バーイ…と後ろ姿に呟いてからドアを閉め、紙袋を開けてみる。

中には、カードと長方形の箱が入っていた。

何だろう?と、まずはカードを読んでみる。

『マリアへ
今夜はこのドレスを着て来てね!
フミヤをギャフンと言わせてみせるわ
カレン』

はい?と、真里亜は目が点になる。

ドレスって、これのこと?と、箱を取り出して開けてみる。

ラメの入ったブラックの生地が見え、わー、素敵!と思ったのは最初だけだった。

「ちょ、何これ?!」

広げてみると、胸元はVの字で大きく開いており、ノースリーブでタイトなラインは、ロング丈とはいえ、足のサイドにスリットまで入っている。
おまけに背中もかなり広く開いていた。

「いやいや、カレンさん。こんなの無理ですって!」

思わず一人で大きな声を出してしまう。

今夜は色々な企業を招いてパーティーが開かれるとのことで、カレンからドレスアップして来るように言われていた。

真里亜は、紺色の丈の長いワンピースを日本から持って来ており、それを着て行くつもりだった。

形はシンプルだが生地はしっかりとした、フォーマルな衣装を扱うショップで購入したものだ。

その上にシルバーのラメ入りのショールを合わせれば、もちろん他の女性よりは見劣りするが、浮いてしまうことはないだろうと思っていた。

「えー?これを着なきゃだめ?カレンさんに怒られちゃうかな…」

ブラックのドレスを手に迷っている間に時間が過ぎ、仕方なくメイクを始める。

いつもより華やかに、色をたくさん使い分けて丁寧にメイクをする。

髪型は、このカレンのドレスを着るならばアップにしない方がいいだろうと、サイドを軽くねじって後ろでまとめるだけにした。

あとは…、本当にこのドレスを着るかどうかだ。

「うーん…。とにかく一度着てみるか」

案外控えめなドレスかもよ?と思いながら背中のファスナーを上げた途端、その考えは即座に打ち消された。

「うわっ!放送事故?!」

胸は谷間がくっきり分かり、背中も半分ほど見えている。

腰のラインもピタッと身体に沿っていて、足のスリットは太ももまで露わになってしまう。

「こりゃいかん!絶対にいかん!」

慌てて着替えようとした時、ノックの音と共に文哉の声がした。

「時間だぞ、支度出来たか?」

ひえっ!と、真里亜は首をすくめる。

「はい、今行きます!」

着替える時間はないか…と、とりあえずショールで背中と胸を隠す。

「これならなんとかなるかな?いや、足と腰のラインがヤバイか。あー、どうしよう」
「おい、まだか?遅れるぞ!」
「はいっ!すみません!」

もう行くしかない。
真里亜はバッグを掴むと、部屋を繋ぐドアを少し開けてそっと文哉に話しかけた。
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