恋は秘密のその先に
「文哉くんが副社長に就任してから、業績は右肩上がりだそうだね。就任して、えっと何年になる?」
「2年でございます。まだまだ未熟で至らぬことが多く、ぜひ今後とも北野社長のお力添えを頂けたらと存じます」
「いやー、とんでもない。力を貸して欲しいのはこちらの方だよ。うちは近々、海外にも事業を展開しようと考えていてね」
「はい。そのようなお噂はかねがね。アメリカのテクノロジー会社を吸収合併されるとか」
それは先程、真里亜が伝えた情報だった。
「おおー、もう知られていたとは。さすがだね。そうなんだよ、文哉くん。この件に関しては、我が社では手に負えない部分も出てくる。是非ともAMAGIに力を貸してもらいたい」
「お役に立てるのでしたら、喜んで。詳しく聞かせていただけますか?」
男性秘書が渡してくれた資料を、真里亜もさり気なく横から目で追う。
副社長は資料をめくりながら、北野社長の話を頷いて聞いていた。
「かしこまりました。また改めて弊社の社長からご連絡いたします」
「そうか、ありがとう!良い返事を期待しているよ」
そう言って満面の笑みを浮かべた北野社長は、急に、ところで…と声のトーンを変える。
「先月のパーティーで君に紹介した私の娘なんだけどね。どうだろう?その後、考えてくれたかね?」
「…とおっしゃいますと?」
副社長は首をひねる。
真里亜は隣で焦り始めた。
(これは覚えてないな。きっと先月のパーティーで、北野社長は娘さんを副社長に紹介して、二人をくっつけようとされたはず)
そのパーティーがあった頃は、まだ真里亜は副社長についておらず、どんな様子だったかは分からない。
それでもおおよそのことは見当がついた。
「副社長。北野社長のご令嬢は、とてもお美しい方でいらっしゃいますよね」
微笑みながら控えめにそっと副社長に話す。
すると、北野社長は嬉しそうな声を上げた。
「いやー、そうなんだよ!我が娘ながら、なかなかの美人でね。幼い頃から礼儀作法やひと通りの習い事もさせている。どこに出しても恥ずかしくない娘なんだよ。私の手から離れていくのは寂しいが、娘ももう27歳だ。そろそろ嫁がせた方がいいと思ってね。文哉くんとなら、私も安心して…」
ようやく話の流れが分かったらしい副社長が、顔を上げて話を遮る。
「北野社長。大変申し訳ないのですが、私には将来を約束した相手がおります」
え…!と、一瞬にして北野社長の笑顔が消えた。
「そ、それは、どちらのご令嬢なんだい?」
「ご令嬢ではなく、うちの社員です」
そしてふいに副社長は真里亜に、さちこ、と呼びかけた。
「は、はい」
「話してもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
(って、何の話か知らないけど)
真里亜が頷くと、副社長は北野社長に向き直った。
「実は、この秘書のさちことは、昔からの知り合いなんです。幼い頃から結婚の約束をしておりまして、私はその約束を守り、いずれ彼女と一緒になるつもりなのです。それに北野社長のご令嬢とあらば、私などではなく、もっとふさわしいお相手がいらっしゃるでしょう。結婚の申し入れをしたいと思っている男性も、多くいらっしゃることと思います。そのような素晴らしいお嬢様と私とでは、畏れ多くてとてもとても…」
「そうか、そうだろうかね?娘はそんなにモテるのかね?」
「ええ。パーティー会場でも、お嬢様は男性陣の注目を一身に浴びていらっしゃいました。一流企業の御曹司も、多数」
よくまあこんなにも淀みなくスラスラと話せるものだと、真里亜はポカンとしてしまう。
結局、北野社長は気分良く持ち上げられたようだった。
「そうか、それならもう一度考え直そうかね」
「ええ、是非」
副社長は、見たこともないような笑顔でにっこりと頷いていた。
「2年でございます。まだまだ未熟で至らぬことが多く、ぜひ今後とも北野社長のお力添えを頂けたらと存じます」
「いやー、とんでもない。力を貸して欲しいのはこちらの方だよ。うちは近々、海外にも事業を展開しようと考えていてね」
「はい。そのようなお噂はかねがね。アメリカのテクノロジー会社を吸収合併されるとか」
それは先程、真里亜が伝えた情報だった。
「おおー、もう知られていたとは。さすがだね。そうなんだよ、文哉くん。この件に関しては、我が社では手に負えない部分も出てくる。是非ともAMAGIに力を貸してもらいたい」
「お役に立てるのでしたら、喜んで。詳しく聞かせていただけますか?」
男性秘書が渡してくれた資料を、真里亜もさり気なく横から目で追う。
副社長は資料をめくりながら、北野社長の話を頷いて聞いていた。
「かしこまりました。また改めて弊社の社長からご連絡いたします」
「そうか、ありがとう!良い返事を期待しているよ」
そう言って満面の笑みを浮かべた北野社長は、急に、ところで…と声のトーンを変える。
「先月のパーティーで君に紹介した私の娘なんだけどね。どうだろう?その後、考えてくれたかね?」
「…とおっしゃいますと?」
副社長は首をひねる。
真里亜は隣で焦り始めた。
(これは覚えてないな。きっと先月のパーティーで、北野社長は娘さんを副社長に紹介して、二人をくっつけようとされたはず)
そのパーティーがあった頃は、まだ真里亜は副社長についておらず、どんな様子だったかは分からない。
それでもおおよそのことは見当がついた。
「副社長。北野社長のご令嬢は、とてもお美しい方でいらっしゃいますよね」
微笑みながら控えめにそっと副社長に話す。
すると、北野社長は嬉しそうな声を上げた。
「いやー、そうなんだよ!我が娘ながら、なかなかの美人でね。幼い頃から礼儀作法やひと通りの習い事もさせている。どこに出しても恥ずかしくない娘なんだよ。私の手から離れていくのは寂しいが、娘ももう27歳だ。そろそろ嫁がせた方がいいと思ってね。文哉くんとなら、私も安心して…」
ようやく話の流れが分かったらしい副社長が、顔を上げて話を遮る。
「北野社長。大変申し訳ないのですが、私には将来を約束した相手がおります」
え…!と、一瞬にして北野社長の笑顔が消えた。
「そ、それは、どちらのご令嬢なんだい?」
「ご令嬢ではなく、うちの社員です」
そしてふいに副社長は真里亜に、さちこ、と呼びかけた。
「は、はい」
「話してもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
(って、何の話か知らないけど)
真里亜が頷くと、副社長は北野社長に向き直った。
「実は、この秘書のさちことは、昔からの知り合いなんです。幼い頃から結婚の約束をしておりまして、私はその約束を守り、いずれ彼女と一緒になるつもりなのです。それに北野社長のご令嬢とあらば、私などではなく、もっとふさわしいお相手がいらっしゃるでしょう。結婚の申し入れをしたいと思っている男性も、多くいらっしゃることと思います。そのような素晴らしいお嬢様と私とでは、畏れ多くてとてもとても…」
「そうか、そうだろうかね?娘はそんなにモテるのかね?」
「ええ。パーティー会場でも、お嬢様は男性陣の注目を一身に浴びていらっしゃいました。一流企業の御曹司も、多数」
よくまあこんなにも淀みなくスラスラと話せるものだと、真里亜はポカンとしてしまう。
結局、北野社長は気分良く持ち上げられたようだった。
「そうか、それならもう一度考え直そうかね」
「ええ、是非」
副社長は、見たこともないような笑顔でにっこりと頷いていた。