恋は秘密のその先に
何周か回ってから休憩していると、小さな女の子が真里亜に話しかけてきた。

「Can you jump?」
「んー、just a little bit」
「Show me ! 」

ええー?!と真里亜は苦笑いするが、女の子は目を輝かせている。

「そんな、何年ぶり?飛べるかな。転んだらごめんね」

Just a single jumpね、と女の子に断ってから、真里亜は大きく助走をつける。

人の波が途切れたところでターンすると、左足のアウトサイドに乗って右足を後ろに引き、つま先を氷について飛び上がり、大きく1回転した。

両手を広げて後ろに流れると、女の子は嬉しそうに拍手をして喜んでいる。

「ふふっ、センキュー!」

ザッと女の子の前でブレーキをかけ、イエーイ!とハイタッチした。

すると周りにいた人までが拍手を始め、滑るのをやめて真里亜を見ている。

「ええ?!何?」

リンクにいる人達が、皆、もっと!と拍手をしていた。

「やだ、もう。どうしよう」
「何かしないと、収まらないと思うぞ?」

文哉に言われ、真里亜は仕方なく助走をつけ始める。

ワー!と拍手が大きくなった。

(あー、恥ずかしい。大して上手くないのに…)

リンクは全面真里亜の為に空けられていて、それに応えるように、真里亜は足を後ろに高く上げるスパイラルでリンクに半円を描く。

ヒュー!と一層皆は盛り上がった。

真里亜は向きを変えてバックスパイラルをしたあと、そのまま踏み込んでスピンを回り始める。

オオー!と拍手が大きくなり、オマケですよと思いながら、真里亜は上体を大きく後ろに反らして回る。

(うぐっ、やっぱり久しぶりのレイバックスピンは無理がある!背中が…いたた)

ヨレヨレになりながらのフィニッシュになったが、見ていた人からは歓声と拍手が起こる。

真里亜は照れながら、両膝を曲げて腕を胸の前に持ってくると、拍手に応えるようににっこり笑って手を広げる。

そして脱兎のごとく文哉のもとに戻ってきた。

「副社長!行きましょう」
「え、もう帰るのか?まだみんな注目してるぞ」
「恥ずかしくて顔から火が出そうです。ほら、早く!」

真里亜は後ろを振り返り、苦笑いしながら皆に手を振って、そそくさとリンクをあとにした。
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