恋は秘密のその先に
タクシーを降りてコンサート会場のホワイエに足を踏み入れると、照明が控えめなせいか、徐々に文哉の気持ちも落ち着いてきた。

真里亜の肩を抱き寄せ、時間まで何か飲むか?と尋ねる。

真里亜が、はいと頷き、二人はバーカウンターで軽くドリンクを飲むことにした。

注文したドリンクを真里亜の前に差し出しながら、バーテンダーが妙に真里亜をじっと見つめる。

真里亜がグラスに手を伸ばした時、バーテンダーがわざと真里亜の手に触れて、ニヤッと笑いかけたのを文哉は見逃さなかった。

文哉はグッと真里亜の肩を抱き寄せて、バーテンダーから遠ざける。

(いや、俺はなぜこんなことを?まるで自分の女だと言わんばかりに)

そうは思うが、やはり心の中では、誰も真里亜に近づけたくなかった。

(ショールがあるからそんなに大胆な格好ではないのに、既に何人もの男が彼女を見ている)

文哉は一気にグラスの中身を飲み干すと、頭の中の考えを打ち消そうとした。
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