恋は秘密のその先に
「ではここで。ありがとうございました。お休みなさい」

ホテルに戻ると、真里亜は部屋の前で文哉に挨拶する。

「あ、えっと…」

文哉は気まずそうに真里亜を呼び止めた。

「少し、部屋で飲み直さないか?」
「え?」
「嫌ならいいんだ。気にしないでくれ」

真里亜は、クスッと笑って頷いた。

「じゃあ、少しだけお邪魔します」
「ああ、うん」

文哉は自分の部屋のドアを開けて、真里亜を中へ促した。

部屋の電気を点けようとすると、真里亜が、ちょっと待って!と止める。

ん?と思っていると、真里亜は窓の近くに歩み寄った。

「どうしたんだ?」

文哉も真里亜の隣に並んで外に目をやる。

「見て。あちこちでクリスマスのイルミネーションがキラキラしてる」
「ああ、そうだな。今夜はいつもより多いな」
「ええ。とっても綺麗…」

文哉は、ふと真里亜の横顔を見つめる。

あどけない表情に見えるが、大人っぽく、それでいて清らかで。

頬に触れたいけれど、触れてはいけないような…。

なんとも言えない気持ちを抱えて、心が焦らされる。

と、その時。
真里亜が手にしていた小さなバッグから、微かにバイブの震える音がした。

「あ、すみません」

断ってから、真里亜はバッグの中のスマートフォンを取り出す。

どうやらメッセージが届いたらしい。

目で追っていた真里亜が、急にふっと優しい笑みを浮かべる。

(こんなにも彼女の表情を優しくさせるのは誰なんだ?)

そう思って、文哉は尋ねた。

「誰からのメッセージ?」
「あ、会社の同期からです」
「同期?」
「はい。人事部で一緒だったんです。メリークリスマス!って書き出しで。でも読んでいくと、すごく嬉しいことが書いてあって…」
「どんなこと?」

すると真里亜は、顔を上げて文哉に問いかけた。
< 139 / 172 >

この作品をシェア

pagetop