恋は秘密のその先に
無事に会食を終えて住谷の運転する車で帰社すると、真里亜は来客の準備をする。

先方の会社に関する資料を副社長に渡してから、給湯室でカップやコーヒーの用意をしていると、廊下に繋がるドアから住谷が入って来た。

「阿部さん、お疲れ様です」
「住谷さん!お疲れ様です」
「これ、お客様にお出しするケーキです。本日いらっしゃる副社長は女性で、洋菓子がお好きなので、有名店のものを買って参りました」

そう言って、おしゃれなデザインの紙袋を差し出す。

「ありがとうございます!助かります。先程も菓子折りをご準備くださってありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、北野社長との会食におつき合いいただき、ありがとうございました。いかがでしたか?」

真里亜は、北野社長が今後海外にも事業を展開するにあたり、我が社に協力を求めたいと話していたこと、それに対して副社長が、改めて社長から連絡させると答えたことを報告する。

「なるほど、分かりました。社長秘書にもこの話を共有しておきます。それからこれ…」

住谷は今度はファイルに綴じられた書類を真里亜に手渡す。
見ると、午前の会議で真里亜が印を入れて住谷に渡した資料の下に、数枚別の資料があった。

「阿部さんがチェックを入れてあった項目について、担当部署から補足説明を受けてまとめておきました」
「うわー、ありがとうございます!めちゃくちゃ仕事が速いですね、住谷さん」

それにあの資料を手渡した時、多くを説明する時間はなかった。
あとで説明しようと思っていたのに、何も言わずともこちらの意図を汲み取ってくれたことにも驚きを隠せない。

「本当に優秀な秘書さんですよね、住谷さんって」
「それ程でも。阿部さんこそ、いつも細やかな配慮をありがとうございます。秘書課でもないし、ましてや秘書の研修を受けたこともないのに、色々なことに気づけるなんてすごいですね」
「いえ。スケジュール管理や諸々の手配など、お手伝い出来ず申し訳なくて。私に出来ることがありましたら、何でもおっしゃってくださいね」

真里亜の言葉に住谷はにっこり微笑んでから、廊下のドアを開けて出て行った。
< 14 / 172 >

この作品をシェア

pagetop