恋は秘密のその先に
食事の後は、お酒やおつまみと一緒に、二人で他愛もない話をする。

ニューヨークの思い出、これからの仕事のこと、キュリアス USAとの仕事に対する意気込み。

真里亜は改めて、文哉が次期社長であることを認識する。

文哉はその覚悟を持ち、将来を見据えて努力していた。

多くの社員とその家族の生活を守るという重責にも負けず、一つ一つの仕事に真摯に取り組んでいくという気概。

真里亜はそんな文哉を尊敬し、信頼し、そして更に好きになった。

「今年は大きな仕事のチャンスをもらって、本当に良い一年だった。全ては真里亜のおかげだよ」
「いえ、そんな。副社長の実力です」
「真里亜が否定しても、俺は確信している。全ては真里亜のおかげだ。そして俺の幸せも、真里亜と出逢えたことだ」
「私も。副社長と出逢えたことが、何よりの幸せです」

二人で静かに微笑み合う。
文哉がそっと真里亜を抱き寄せようとした時だった。

「あ、大変!もう年が明けちゃう!」

時計を見上げた真里亜は慌てて給湯室に行き、そばを茹で始める。

「そんなに慌てなくても。年越しながら食べればいいんじゃないの?」
「え、そうなんですか?年が明ける前に食べ終えなきゃいけないと思ってました」
「ええ?そうなのか?」
「いえ、分からないです。副社長のご家庭では、食べながら年越ししてました?」
「うーん、適当だったかな?」
「どれが正解なんでしょうね?」

そんなことを言いながら、茹で上がったそばに持って来た海老の天ぷらを載せる。

「では、いただきまーす!」

食べ始めてしばらくすると、ふと文哉が思いついたように話し出す。

「真里亜。どうやって年越しの瞬間を迎えるか、正解が分かった」
「え?年越しそばを食べながらかどうかってことですか?」
「うん。正解は、食べ終えてから」
「そうなんですね!じゃあ、急いで食べちゃいます」

23時58分。
年越しそばを食べ終えた真里亜は、ドキドキしながら時計を見つめる。

「わあ、いよいよですね。どうしよう、緊張してきちゃった。さようならー、2022年。とっても素敵な一年になりました。ありがとうございます。2023年も良い年になりますように」

真里亜は両手を組んで祈るように呟いた。

「真里亜」

ふいに呼ばれて、真里亜は文哉を見上げる。

「はい」
「あと10秒で新年だ。年越しの瞬間は、こうやって迎えるのが正解」

そう言うと文哉は、真里亜を抱き寄せてキスをした。

優しく長く、うっとりするほど幸せなキスを…。
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