恋は秘密のその先に
(知らなかったなあ、住谷さんの気持ち)

エレベーターで最上階に上がり、副社長室に向かいながら真里亜は住谷との会話を思い出す。

(副社長も、根っからの女性嫌いじゃなかったのか。少しずつ変わってしまったのかな。本来はどんな性格なんだろう)

副社長の素顔を自分も見てみたいな、と思いながら部屋のドアをノックして中に入る。

その途端、ガタッと副社長が立ち上がって鋭い声で聞いてきた。

「遅い!何をやっていた?」

はあ…と真里亜はため息をつきそうになる。

(前言撤回!やっぱり血も涙もないのね、この鬼軍曹!)

心の中で悪態をつきながら、不機嫌な声で答える。

「ラウンジで休憩しておりました。勝手に申し訳ありません」

怒るならご自由にどうぞ!と思っていると、予想外にホッとしたような声が聞こえてきた。

「そうだったのか」

ストンと椅子に座り直した副社長に、真里亜は、ん?と首を傾げる。

「副社長。私がどこにいると思っていらっしゃったのですか?」
「あ、いや。先程の女性客を見送りに行ってなかなか帰って来ないから、もしや彼女に何かされているのかと…」
「え?」

(それって、もしかして私のことを心配してくれていたとか?)

住谷の言葉が頭の中に蘇る。

『本来の明るい性格を取り戻して欲しい』

ほんの少しだけ、副社長の素顔が見られた気がして、真里亜はふふっと微笑んだ。
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