恋は秘密のその先に
「あーあ、逃げられちゃった」

真里亜が出て行ったあと、副社長室のソファの背もたれに住谷がドサッと身体を投げ出す。

「もう少し話したかったのになあ、真里亜ちゃんと」
「お前、何が目的なんだ?」

文哉がチラリと視線を上げる。

「それはもちろん、スパイの動向を探ってるんですよ」
「そうは見えなかったが…」
「おや?それはどういう意味でしょう」
「馴れ馴れしく言い寄ろうとしているふうにしか見えん」

ははーん、と、住谷はしたり顔になる。

「なるほど。だからあんなにも、私の背中に冷たい視線を突き刺していた訳ですね、副社長は」

はあ?と文哉が眉根を寄せる。

「俺がいつそんな…」
「あんなに恐ろしい目で睨んでおきながら、私が気づかないとでも?背筋に寒気が走りましたよ。おー、こわっ!」

思い出したように、住谷がぶるっと身震いしてみせる。

「さてと!私も会議室の準備をしてきますね。真里亜ちゃん一人では大変でしょうから」

思わせぶりな態度でニヤリと文哉に笑いかけてから、住谷も部屋を出て行った。
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