恋は秘密のその先に
(んー。さっきの会議、副社長はあまり納得されなかったみたいだなあ)

真里亜は会議室の後片付けをしながら思い返す。

会議中、いつもならじっと話に耳を傾け、曖昧な点はすぐに指摘して詳しく聞き出す副社長が、今日はずっと無口だった。

あとで担当者に聞いて補足しようと真里亜が様子をうかがっていたが、具体的にどの部分が、というより、全体的にぼんやりと聞き流しているようだった。

(珍しいな。いつもは前のめりにズバズバ質問する副社長が、あんなにうわの空になるなんて)

「あの、住谷さん」
「んー?なあに、真里亜ちゃん」

プロジェクターの電源を落としている住谷に声をかけてみる。

「副社長、どこか様子がおかしくなかったですか?何だか覇気がないというか…。住谷さん、何か心当たりはありますか?」
「へえー。真里亜ちゃん、副社長のこと心配してくれてるの?」
「それは、まあ。一応、秘書ですし」
「お!ついに認めたね。人事部じゃなくて、副社長の秘書だって」
「いえ、今だけはって意味ですよ?期間限定とはいえ、与えられた役目はきちんと果たそうと思って…」

ふーん、と住谷は宙を見ながら思案する。

「じゃあさ、もし誰か他に副社長の秘書をやってもいいって人が現れたら?真里亜ちゃん、席を譲るの?」
「それはもちろん。最初からそのつもりですし、後任の方が長く続けてくれるなら、私は安心して人事部に戻れます」
「そうなんだ。じゃあ、人事部の部長に話してみるよ。早く真里亜ちゃんが戻れるように、後任を探してくれってね」
「あ、はい。よろしくお願いします」

真里亜は礼を言って頭を下げる。

ずっとそれを望んでいたはずなのに、嬉しさどころか妙な違和感を感じ、真里亜は、変だなと心の中で首を傾げていた。
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