恋は秘密のその先に
「おはようございます」
「おはよう」

翌朝、いつものように出勤してきた真里亜の様子を、文哉はそっとうかがった。

(普段と何も変わらないな。やっぱり彼女がそんなことをする訳がない)

そう思いつつ、でも…という思いが頭をかすめる。

(見かけによらず、本当に優秀なスパイだとしたら?いや、それならとっくに情報を掴んで姿を消してるか。夕べのハッキングにしても、俺の留守中にパソコンをいじる方が早いし…)

「副社長?」

急に声をかけられ、顔を上げると目の前に真里亜が立っていた。

「うわ!え、なんだ?」
「あの、コーヒーをお持ちしました」
「え?ああ、ありがとう」

置いてくれたコーヒーをひと口飲み、ホッと息をついていると、真里亜が控えめに口を開く。

「あの、副社長。顔色も悪くてお疲れのようです。少し隣のお部屋で休まれてはいかがですか?」
「いや、大丈夫だ」
「ですが、1時間だけでも…」
「大丈夫だと言っただろう!気にするな」

突っぱねるように冷たく言うと、真里亜はうつむいて自分の席に戻る。

そして、少し席を外しますと言って部屋を出て行った。

(もしかして、また傷つけたかな…)

強い口調で拒絶してしまったことを後悔していると、5分程で真里亜が戻って来た。

「副社長。せめてこちらを召し上がってください」

え?と文哉が驚いて顔を上げると、真里亜はデスクにレタスサンドイッチと野菜ジュースを置いた。

「片手でも食べられますから。パソコン作業のついでにどうぞ」
「あ、ありがとう」

面食らいながら、文哉は真里亜が封を開けてくれたサンドイッチとジュースを口にする。

(美味しい…)

気づけばあっという間に完食していた。

(ふう、うまかった)

ホッとしてまたコーヒーを飲んでいると、こちらを見て微笑んでいる真里亜と目が合う。

慌てて下を向くが、文哉は妙に顔が熱くなるのを感じていた。
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