恋は秘密のその先に
「部長!」

人事部の部屋に入ると、真里亜は一番奥の部長のデスクに向かう。

「ちょっとお話いいですか?」

鼻息荒く仁王立ちになる真里亜に気づくと、部長はニコニコと笑顔で立ち上がった。

「おおー、待っとったぞ、阿部くん。良かったな、ようやく戻って来られたな」

ポンポンと真里亜の肩を叩くと、オフィスにいる皆を見渡して声を張る。

「おーい、みんな。我が人事部の阿部 真里亜がついに戻って来たぞ!」

一斉に皆が顔を上げて真里亜を見た。

「おっ、阿部 真里亜!無事に生還だな」
「良かったねー、真里亜。あの冷血副社長にイジメられなかった?」
「あ、はい。ありがとうございます」

懐かしい先輩達に声をかけられ、真里亜は一旦怒りの表情を抑えて笑顔になる。

「今日からまたよろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

とにかく今は落ち着こうと、真里亜は、不在中もそのままにしてくれていた自分のデスクに向かう。

「よっ、阿部 真里亜。元気だったか?」

向かいの席から、藤田が声をかけてきた。

「藤田くん。久しぶりだね」
「どうした?念願の人事部に戻って来たのに、あんまり嬉しそうじゃないな」
「ああ、うん。人事部には戻りたかったけど、こんな中途半端なままでは納得出来なくて」

ん?何がだ?と、藤田は訝しそうに聞く。

「ううん、ごめんね。何でもない」
「そう?じゃあ、早速仕事振り分けてもいい?お前のいない間、結構忙しくてさ」
「あ、そっか。ごめんね」
「いや、お前のせいじゃないし。とりあえず、2つか3つ、引き受けてくれない?」
「うん、分かった」

真里亜は藤田から書類を受け取り、手順を思い出しながら手続きを進めていった。
< 73 / 172 >

この作品をシェア

pagetop