恋は秘密のその先に
「さてと!がんばりますか」

腕まくりをしてパソコンを立ち上げ、キュリアスに関するファイルを開く。

共有フォルダから抜いたそのファイルは、自分で完成させたあと、また共有フォルダに戻すつもりだった。

(最後までやり遂げたい。それにこの件で先方とやり取りしたのは私だもん。私がやるのが一番早いはず)

人事部の仕事の合間を縫って、提出期限までにはしっかり仕上げるつもりだ。

真里亜は気合いを入れて、作業に集中していた。

やがてガヤガヤと皆がオフィスに戻って来る。

時計の表示が13時に変わった途端、チャットが届いた。

『昼休みは終わった。ファイルを戻せ』
『こわっ!副社長、もはやストーカーですよ?』
『お前がさっさと返さんからだろう!業務妨害で訴えるぞ!』
『じゃあ私は、ストーカー被害とモラハラ、パワハラで訴えますよ?』
『つべこべ言わずにさっさと返せ!』
『副社長こそ、さっさと私をチームに戻してください』
『それは出来ん』
『そうですか。では、失礼します』
『おい、こら!』

その後も何通か送られて来たが、真里亜はスルーを決め込む。

カタカタとひたすら手を動かして資料作りに励んでいると、藤田が声をかけてきた。

「阿部 真里亜。なんでそんなにやること多いんだ?俺、なんかややこしい仕事頼んだか?」
「あ、ううん。頼まれたものは全部終わったよ」
「じゃあ、それは?」
「あー、これは秘書課にいた時のやり残しなの」
「ふーん、そっか。だったらそれが終わるまでは、俺も頼まないから。がんばれよな」
「うん、ありがとう!」

藤田に笑いかけてから、また作業に没頭する。

しばらくすると、また藤田に声をかけられた。

「おーい、阿部 真里亜」
「なあに?」

顔を上げると、ドアの前にいる藤田がクイッと親指で後ろを差した。

「お客さんだぞ」

ん?と覗き込むと、廊下に住谷の姿があった。

「住谷さん!」
「お疲れ様、真里亜ちゃん。ちょっといいかな?」
「ええ。今行きます」

真里亜は、少し外すねと藤田に伝えてから、住谷と一緒にカフェテリアに向かった。
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