恋は秘密のその先に
やがて食事と歓談の時間になり、文哉と真里亜はタイミングを見て社長に挨拶に行く。

社長は二人の顔を見るなり、破顔して握手を求めてきた。

「これは天城副社長。今日はよく来てくれたね」
「お招きいただき、ありがとうございます。改めまして、新社屋の完成、誠におめでとうございます」
「ありがとう!いやー、あのセキュリティシステム、なかなか快適だよ。スマートに涼しい顔して使いこなせるようになったんだ」
「左様でございますか。嬉しいお言葉をありがとうございます。もし何かありましたら、いつでもお知らせください」
「ああ。頼りにしてるよ」

そして社長は、文哉の隣の真里亜に目をやる。

「おおー、アベ・マリア。今夜はますますアベ・マリアだな」
「ありがとうございます…?」

意味が分からないが、とにかく笑顔で頭を下げる。

「今度ゆっくり話をしよう。またいつでも遊びに来なさい」
「はい、ありがとうございます。楽しみにしております…?」

遊びに来いって、どこへ?
話をしようって、何の話?

更にハテナは増えるが、真里亜はまたもやにっこり微笑んで頷いた。

自分達のテーブルに戻ると、意外にも他のお客様に次々と声をかけられる。

「うちのセキュリティシステムもお願いしたい」
「どんなシステムか、今度詳しく話を聞きたい」
というものから、
「どうしてキュリアス ジャパンの社長と仲が良さそうなのか?」
と聞かれたりもした。

料理を食べる暇もなく、文哉も真里亜も色々な人と名刺交換をする。

ようやく人心地ついたときには、テーブルの上に、もらった名刺の山が2つ出来ていた。

「うわっ。俺の手持ちの名刺、あと3枚しかない」
「私はあと1枚です…」

もう誰にも声をかけられませんように…と思わず心の中で呟いた時、真里亜は手にしていた自分の名刺に視線を落として、思わず、あー!と声を上げた。

「びっくりした。なんだ、どうした?」
「あの…。私の所属先、人事部ってなってるのに配ってしまって…」
「あー、そうか。まあ仕方ない。けど、うーん…。やっぱりマズイな」
「ですよね。申し訳ありません」
「いや、お前が悪いんじゃない。気にするな」

だが、この先もこういうことがあると考えたら…。

しばらくの間、文哉は今後の真里亜の所属先について思案していた。
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