恋は秘密のその先に
ピッとルームカードをかざしてドアを開けると、文哉は真里亜を、どうぞと中に促す。

ありがとうございます、と先に部屋に足を踏み入れた真里亜は、驚いて足を止めた。

「え、何ここ?」

正面の大きな窓の外には綺麗な夜景が広がり、ソファやダイニングテーブル、そしてキングサイズのベッドがある広い部屋は、真里亜が想像していた部屋とは大違いだった。

「すごーい!豪華なお部屋」

思わず窓に近づいて、月が綺麗な夜空を眺める。

「なんて素敵なの。こんなに綺麗な景色が見えるなんて。ね?副社長」
「いや、うん」

にっこりと真里亜に笑いかけられ、文哉は返事に困る。

(なんなんだ、このシチュエーション。ホテルの部屋で二人きりだぞ?)

どうしていいか分からない文哉とは対照的に、真里亜はすんなりこの状況を受け入れて、はしゃいだ声を上げている。

「えっと、とにかく鞄を持ってロビーに下りよう」

文哉は部屋の中をキョロキョロと見渡す。

入り口の近くに大きなウォークインクローゼットがあり、探してみると、二人の鞄や会社で着ていたスーツもあった。

文哉が鞄に手を伸ばした時、ふいに部屋のチャイムが鳴る。

「おっ、智史か?」

助けが来たとばかりにドアを開けると、ホテルマンがにこやかに立っていた。

「失礼いたします。ルームサービスのシャンパンとフルーツをお持ちしました」
「はっ?!」

またもや目が点になる文哉は、ジャケットの内ポケットで震えるスマートフォンに気づく。

すぐさま取り出して見ると、住谷からメッセージが届いていた。

『副社長、遅れて申し訳ありません。シャンパンとフルーツを召し上がってお待ちください。明朝10時にはお迎えに参ります』

「はあー?!」

文哉は思わず大きな声を出す。

真里亜は、運ばれてきたシャンパンと美味しそうなフルーツに目を輝かせていた。

「副社長、見て見て!シャンパンにイチゴとマスカット!すごーい、映画みたい」
「お前…、なんでそんなに順応性が高いんだ?」
「さ、乾杯しましょ!」
「何にだ?!」

苛立つ文哉には目もくれず、真里亜はグラス2つにシャンパンを注ぐと、片方を文哉に差し出した。

「では、なんだか知らないけど素敵な夜に。かんぱーい!」
「よくそんな呑気なことを…」

真里亜はゴクゴクとシャンパンを飲み、美味しい!とうっとりしている。

「このイチゴも甘くてシャンパンに合いますね。うふふ、セレブな気分」

もはや文哉は、ため息しか出てこなかった。
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