恋は秘密のその先に
「それで住谷さん、何時頃になりそうなんですか?」
半分程シャンパンを空けたところで、思い出したように真里亜が聞く。
「あ…その。どうやらもう少し遅くなりそうだから、タクシーで帰ろう。お前のマンションまで送っていく」
まさか明日の朝まで迎えが来ないとは言えない。
「そうなんですか?どうしたのかな、住谷さん。秘書の仕事、お忙しいのかな…」
そう呟くと、真里亜は顔を上げて真剣に話し出す。
「副社長。やっぱり私、後任の秘書を探してみますね。他の部署の女の子に声をかけてみます。副社長のご希望としては、やはり婚約者のフリをしてくれる人がいいですよね?」
「いや、それは…。まさかそんな条件は言えないだろう」
「でも、それだと副社長が困るでしょう?言い寄ってくる女性をあしらうのは大変ですもの。あ、その時だけは、私がお芝居しに登場しましょうか?」
呼ばれてジャジャーン!って、と言って真里亜は笑っている。
「いや、大丈夫だ。お前には散々迷惑かけて、悪かったな」
「迷惑だなんて。私、副社長の恋を応援してますから。お二人の愛は本物ですよね」
は?と文哉は目をしばたかせる。
「何の話だ?俺の…恋?」
「もう、副社長までしらばっくれちゃって。お二人とも私には隠さなくていいですよ」
「お二人とも?って、もう一人は誰だ?」
「ですから、もちろん住谷さんですよ。住谷さんも慌てて否定してましたけど、私は何でもお見通しですからねー。大丈夫、お二人の秘密は守ります。私を恋人のカモフラージュに使ってもらっていいですよ」
文哉は固まったまま、頭の中をフル回転させる。
(どういうことだ?一体、何の話を。俺と智史がなんだって?なんか、恋人がどうとか…)
「えっ、お前まさか!俺と智史が恋人同士だと?!」
「そうなんです。分かっちゃったんですよねー。いいですね、小学生の頃からのおつき合い。憧れちゃうなー、幼馴染みラブ!」
「変な呼び方をするな!何を勘違いしている。俺が智史とつき合うはずないだろう!」
へ?と、今度は真里亜が呆気に取られる。
「副社長。全力で照れてるんですか?」
「違うわ!全力で否定している!」
「どうして?」
「だから!俺は智史の恋人なんかじゃない。あいつだって今はフリーだが、これまでつき合ってきた彼女は何人もいる」
真里亜はポカーンとする。
「そうなんですか?私はてっきりお二人が…。どこで勘違いしたんだろう?」
「こっちが聞きたいわ!」
肩で息をしながら、文哉は必死で真里亜の言葉を打ち消した。
「そっかあ。じゃあ今、副社長がおつき合いしている方は?」
「もう何年もいない」
「本当に?あんなにたくさんのご令嬢が言い寄って来られるのに」
「そういう相手とつき合おうなんて気にはなれない。もはや拒絶反応だな」
「ふーん、もったいない。でもきっとそのうち、副社長が心惹かれる女性が現れますよ。副社長は、どんな素敵な女性と結ばれるのでしょうね」
真里亜は、ふふっと笑ってからシャンパングラスに目を落とす。
その横顔を文哉はじっと見つめた。
耳元で揺れるイヤリング。
長いまつ毛とほんのりピンク色に染まった頬。
艷やかな唇と綺麗な瞳。
ふわっと柔らかい髪からのぞく白い首筋。
優しい表情を浮かべているその横顔は、仕事中のスーツ姿の真里亜とは別人のように美しかった。
半分程シャンパンを空けたところで、思い出したように真里亜が聞く。
「あ…その。どうやらもう少し遅くなりそうだから、タクシーで帰ろう。お前のマンションまで送っていく」
まさか明日の朝まで迎えが来ないとは言えない。
「そうなんですか?どうしたのかな、住谷さん。秘書の仕事、お忙しいのかな…」
そう呟くと、真里亜は顔を上げて真剣に話し出す。
「副社長。やっぱり私、後任の秘書を探してみますね。他の部署の女の子に声をかけてみます。副社長のご希望としては、やはり婚約者のフリをしてくれる人がいいですよね?」
「いや、それは…。まさかそんな条件は言えないだろう」
「でも、それだと副社長が困るでしょう?言い寄ってくる女性をあしらうのは大変ですもの。あ、その時だけは、私がお芝居しに登場しましょうか?」
呼ばれてジャジャーン!って、と言って真里亜は笑っている。
「いや、大丈夫だ。お前には散々迷惑かけて、悪かったな」
「迷惑だなんて。私、副社長の恋を応援してますから。お二人の愛は本物ですよね」
は?と文哉は目をしばたかせる。
「何の話だ?俺の…恋?」
「もう、副社長までしらばっくれちゃって。お二人とも私には隠さなくていいですよ」
「お二人とも?って、もう一人は誰だ?」
「ですから、もちろん住谷さんですよ。住谷さんも慌てて否定してましたけど、私は何でもお見通しですからねー。大丈夫、お二人の秘密は守ります。私を恋人のカモフラージュに使ってもらっていいですよ」
文哉は固まったまま、頭の中をフル回転させる。
(どういうことだ?一体、何の話を。俺と智史がなんだって?なんか、恋人がどうとか…)
「えっ、お前まさか!俺と智史が恋人同士だと?!」
「そうなんです。分かっちゃったんですよねー。いいですね、小学生の頃からのおつき合い。憧れちゃうなー、幼馴染みラブ!」
「変な呼び方をするな!何を勘違いしている。俺が智史とつき合うはずないだろう!」
へ?と、今度は真里亜が呆気に取られる。
「副社長。全力で照れてるんですか?」
「違うわ!全力で否定している!」
「どうして?」
「だから!俺は智史の恋人なんかじゃない。あいつだって今はフリーだが、これまでつき合ってきた彼女は何人もいる」
真里亜はポカーンとする。
「そうなんですか?私はてっきりお二人が…。どこで勘違いしたんだろう?」
「こっちが聞きたいわ!」
肩で息をしながら、文哉は必死で真里亜の言葉を打ち消した。
「そっかあ。じゃあ今、副社長がおつき合いしている方は?」
「もう何年もいない」
「本当に?あんなにたくさんのご令嬢が言い寄って来られるのに」
「そういう相手とつき合おうなんて気にはなれない。もはや拒絶反応だな」
「ふーん、もったいない。でもきっとそのうち、副社長が心惹かれる女性が現れますよ。副社長は、どんな素敵な女性と結ばれるのでしょうね」
真里亜は、ふふっと笑ってからシャンパングラスに目を落とす。
その横顔を文哉はじっと見つめた。
耳元で揺れるイヤリング。
長いまつ毛とほんのりピンク色に染まった頬。
艷やかな唇と綺麗な瞳。
ふわっと柔らかい髪からのぞく白い首筋。
優しい表情を浮かべているその横顔は、仕事中のスーツ姿の真里亜とは別人のように美しかった。