不器用な神野くんの一途な溺愛
「でも」と、小野宮の声色が低くなる。
「原稿を書いたからには読まないといけない。大きな声で、皆に届くようにって……。だから、この橋から、原稿を読む練習をしてたの。何日も何日も、声が枯れるくらいに。
でも、でもね――」
小野宮の手が震える。
その震えは、俺にも伝わっていた。
「急に怖くなる時が、あったの。本当に、私にできるのかなって……私に、務まるのかなって……。そんな弱い私と、前を向く私と……入れ替わるように、毎日この橋の上で葛藤してた。
でも、そんな私は、やっぱり弱かった」
瞬間、橋の上ということもあって、強い風が吹く。小野宮の髪が、綺麗に空になびいた。
「あの日も、こんな風だった。私の原稿をさらった風も、こんなふうに一瞬の強い風だった」