不器用な神野くんの一途な溺愛
「っ!」



そんなことねーよ。

俺があの時、川に入ってるお前を助けてやれてれば、お前が挨拶を出来たかもしれねーだろ。二人で力を合わせて、良い原稿を一から作ることもできただろ。



「(俺は、悔しくて仕方ねーよ)」



あの時にお前を助けてやれなかった事が、悔しくて仕方ねぇ――


だけど小野宮は違った。


「なんでそんなしかめっ面してるの」と笑いながら、俺の頬に手を添える。



「私、この思い出は悲しくて、もう思い出したくなくて……自分の心の閉まっていたの。でも、神野くんと私の、二人の始まりの出来事だって思うと、一瞬で、良い思い出に変わっちゃった……っ」

「……」

「えへへ」



あどけなく笑う小野宮。顔は涙でぐしょぐしょで、手は未だに震えていて……だけど、前を向くんだな。お前は、そんなに強い奴だったんだな。
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