不器用な神野くんの一途な溺愛

結局――


希春先輩は私の教室近くまで送ってくれ、今度こそ会議室に戻って行った。

私は希春先輩の後ろ姿を見送り、

そして――


「ま、た……」


また――と、

少しだけ、挨拶を頑張ってみた。





「 (あ、しまった……) 」


先輩と別れて、自分の教室に戻った後――

言われた通りに帰る準備をしていたら、あることに気づいた。


「 (筆箱、また忘れちゃった……) 」


会議室に、私の筆箱がそのままだ。

最悪……。でも、今更とりにもいけないし……。


「 (明日早く登校して、会議室に筆箱を取りに行こう) 」


はぁと、深いため息をついた時――誰もいなかったはずの教室から、足音が入って来る。

それと同時に「おい」という声も。


「!」


その声は、一度だって聞き間違えたことのない――苦手な声。

私の肩は大袈裟なくらいピクリと跳ねて、心臓はバクバクと、早い鼓動で鳴り始めた。


恐る恐る振り返る。

すると、やっぱり――

しかめっ面で仁王立ちする、神野くんの姿があった。
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