不器用な神野くんの一途な溺愛
結局――
希春先輩は私の教室近くまで送ってくれ、今度こそ会議室に戻って行った。
私は希春先輩の後ろ姿を見送り、
そして――
「ま、た……」
また――と、
少しだけ、挨拶を頑張ってみた。
◇
「 (あ、しまった……) 」
先輩と別れて、自分の教室に戻った後――
言われた通りに帰る準備をしていたら、あることに気づいた。
「 (筆箱、また忘れちゃった……) 」
会議室に、私の筆箱がそのままだ。
最悪……。でも、今更とりにもいけないし……。
「 (明日早く登校して、会議室に筆箱を取りに行こう) 」
はぁと、深いため息をついた時――誰もいなかったはずの教室から、足音が入って来る。
それと同時に「おい」という声も。
「!」
その声は、一度だって聞き間違えたことのない――苦手な声。
私の肩は大袈裟なくらいピクリと跳ねて、心臓はバクバクと、早い鼓動で鳴り始めた。
恐る恐る振り返る。
すると、やっぱり――
しかめっ面で仁王立ちする、神野くんの姿があった。