大学生をレンタルしてみた
ふと前方にニットキャップ姿を見つけた。

晴人。

私の心がキュッと高鳴るのを感じる。

でも彼が横向いた瞬間に、見慣れた横顔ではないことに気付いた。別人。誰。

驚くほどのスピードで私の心が急降下する。

あれ、私、なんでこんなに落ち込んでるんだろう。晴人、今何やってるんだろう。

無意識に右ポケットの中のスマホに触れていた。

彼は確かに「いつでも呼んで」と言った。1時間4,000円で。給料日前で金欠だけど。

スマホを取り出し、連絡先を探す。

飯塚晴人。

思わず電話をかける。
呼び出し音が1回、2回。
出るわけないか、出るわけないよね。
3回。

よし、切ろう、バカみたい、期待して。

切ボタンを押しかけた時、「はい」とクセのある声が出た。

「もしもし?」
「どうしたの」
「今何やってたのかなって」
「今友達ん家でゲームやってました」

ゆったりとした眠そうな口調で答える。

私の出番じゃない。27の女がなに出しゃばってるんだろう。恥ずかし。

耳まで血流が回って熱くなるのを感じた。

「ごめんね、切ります」

そう言ってスマホを耳から離した時。

「もしもし!木下さん?」

大声で彼が呼び止める。

暗いバス停に、さっきのニットキャップが一人バスを待つ。私は再びスマホを耳にあて、そこに並ぶ。

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