大学生をレンタルしてみた
私は手を洗うと、買ってきたフォーを温める。一方で晴人は早速お酒とアイスを取り出した。

小さなローテーブルを前に二人で並ぶ。

晴人はニットキャップを取り、頭をブンブンと振った後ペシャンコになった姿を見せた。思わずその頭を撫でると、彼の体温が手を伝ってくる。

電子レンジの音が鳴った。私は立ち上がりフォーを取りに向かう。彼は早速アイスを食べ始めた。

「美味いですか」

隣で彼が言う。
私のフォーがパクチーの匂いを放つ。

「俺、パクチー苦手なんですよね」
「食べてみる?」
「いらないです、俺の食べます?」

チョコチップバニラのアイスをスプーンですくって私に向ける。私はそっと口を開くと、そこにスプーンを運んできた。

「美味しい?」
「美味しい」
「よかった」

彼の滑舌は悪い。声にも癖はあるし、濁声だし、お世辞にもいい声というわけではない。

それでも居心地良く感じるのは、彼との距離のせいだろうか。

私の耳は、たくさんの声の中から彼の声だけを選別する力を持ってしまった。

彼はゆっくりとアイスを口に運び、お酒を飲む。目にかかるほど伸びた前髪が、ハーフパンツからはみ出たふくらはぎが、まだ学生なんだと感じさせる。顔の小ささの割に首が長いことに初めて気付いた。

ああ、彼はすべてのバランスがいいんだ。
何かに突出してるわけでもなく、それでいて心地良いのはそういうことだ。

「食べ終わったら俺はもう用無しですか」

彼が掠れるような声を漏らしてゆっくりと私を見た。

「まだ帰りたくないんですけど」

< 33 / 56 >

この作品をシェア

pagetop