大学生をレンタルしてみた
「うちって」と突然私の説明を割って入ってきた。

「所得税だって多分お姉さんが考えられてるよりすごく、すごーく払ってるんですよね、手取りってそう多くないんですよ。所得税だけじゃなくて社会保険料も高いんですよ、都内に住むのだってそう楽じゃないし、1,500万円って思われてるよりずっとずっと低いんですよ、生活水準」

何かスイッチが入ったようだ。「ええ、ええ、なるほど、ええ」と私も機械的に返すものの、正直面倒なパターンに陥ったことを悟る。

「今も塾にいくら掛かってると思われます?お姉さん子どもを育てたことないから分からないと思うんですが、3教科月いくらだと思いますか?」

爪のグラデーションを描いたネイルが私の目に飛び込んでくる。私は少し考えたふりをして低めに言ってみた。

「3万円とか4万円ですかね」
「えーうちそれだったらこんなに悩まないです、小学生ですよ、その水準。うち7万です、月」

延々と続く毎月の支出の話。隣で少し俯いて全く話そうとしない息子。何度も突き付けられる「子どもがいないから分からない」「年収1,500万円の生活を分かってない」という現実。感情で捲し立てられ、ストレスをぶつけられる。

仕切りなんて関係なく隣のブースにも聞こえているはずだ。

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