大学生をレンタルしてみた
廊下に連れ出される。

「木下さんね」

絞り出されるような低い声。

「いろんな環境の人がこの学校に通ってくる。決まり文句なんてないんだよ。一人一人に対応しないとまたこういうクレームはすぐに来る。もう新人じゃないんだからちゃんと自分の頭で考えるようにしよう」

心でパリンと割れた気がした。人数が減った学生生活課でかなりの業務が私に割り振られ、それでも何とかやってきたのに。

廊下の向こうからゾロゾロと学生の集団がやってきた。課長は背後を気にして「よろしくね」と言ってまた部屋に戻っていく。

廊下に残された私。

八方塞がり。みんな私に背中を向けている。喉の奥がギュッと苦しくなって、ゴクッと唾を飲む。ああ、ダメだ。天井を見上げる。
すこしでも顔を下向けると涙が溢れそうだった。

相談コーナーへ戻りたくない。もう嫌だ。

目を瞑る。行かないといけないのは分かっているけど、まだ戻りたくない。

「晴人」

学生の集団の中からわずかに聞こえた。

「パンフレットどこに置いてあるんだっけ」
「知らない、受付の人に聞く?」

返答する声はまさしく彼の声だった。
こんなところで会うなんて。ゆっくりと顔を下ろすと、すぐ5mほどの距離に彼はいた。

彼とばっちりと目が合う。その周りにいた3人の学生も私の方を見た。晴人といつもいる顔ぶれだ。

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