大学生をレンタルしてみた
少し躊躇いの顔をしながら、晴人が私に数歩近づく。

「すみません、パンフレットって学生生活課にありますか」

久しぶりに話しかけてきた声。表情が固い。
私は目尻に涙を感じながら笑顔を無理やり作った。

「運びますよ、受付でいいですか」
「いや、俺たち取りに行くんで大丈夫です」
「学生生活課の前の廊下にダンボールに入れてるので、そこから持っていってください。台車も近くにあるんで使ってください」

彼は「分かりました」と口で言いながら、分かってなさそうな顔をする。

その顔が真顔になる。

「なんかありました?」

急に胸が鼓動を打つ。なんで今こんなところで会ってしまうんだろう。なんで見抜かれるんだろう。

私はグッと食いしばり、わずかに首を横に振る。晴人は軽く頷いて数歩後退りした。

「勘違いだったら大丈夫です、パンフレット取っていきますね」

小さな声だった。私はそんな彼から視線を逸らし、奨学金相談コーナーへと向かった。

彼の表情が頭にこびりついて離れなかった。
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