大学生をレンタルしてみた
私は急いで涙を拭いて出た。

「もしもし」
「もしもし」

相変わらずの声だ。後は静かだった。

「どうしたの」
「ちょっと、久しぶりに話したくなって」

かしこまった口調で言うから、どんな表情しているのか全く読めない。

「もう私たちって終わったんじゃなかったっけ」
「終わりました」
「じゃあ、これは何」
「いいじゃないですか、べつに」

声が笑った。気怠そうな、ゆっくりとした声。
なんでこの人は私に電話をくれるんだろう。

「あの」と彼は続けた。

「今から俺そっちの部屋行っていいですか」
「今から?」
「会いたいです」

気付いてしまった。
私はこの人のことが好きだ。すごく好きだ。声も、顔も、手も、足も、帽子も、帽子から覗く前髪も。

「うん、来て」

私は驚くほどカラカラの声になっていた。
きっとそれを言うのには勇気が必要だったからだ。

「行きます」

彼の笑った表情から出る声が電話の向こうでした。
< 44 / 56 >

この作品をシェア

pagetop