大学生をレンタルしてみた
彼はまた息を切らして来た。
「疲れた、あつい」と途切れがちに言いながら、靴を脱いで部屋に上がり込む。

「寒かった?」
「暑いって言ったじゃないですか、今」
「でも薄着だから」
「脱いだんですよ」

彼はゆさゆさと脱いだ黒いアウターを私に見せてきた。彼は2駅分の距離を自転車で来たらしい。

「なんでそんな急いで」

私たちはまたテーブル前に並んでベッドに背もたれながら座った。あぐらをかく彼の足がわずかに私の膝に当たる。

彼は真顔で私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫かなと思って」
「私?」
「うん」

彼の手がそっと私に伸びてきた。髪の毛に触れそうになったところでピタリと止まった。

「触っていいですか」

彼の表情が一気に笑って砕けた。
私は頷く。
彼はホッとしたような表情を見せ、手を私の頭に乗せてきた。そしてグッと自分の方に引き寄せる。

私の体は勢いよく彼の胸の中に収まった。相変わらず細い体。
彼の温かい手がゆっくりゆっくり私の頭を撫でる。

「おつかれさま」

耳元で響く声。私に言ってくれる人がいるなんて。それも私の好きな人。

私はわずかな時間、彼の体に身を任せて甘えていた。

「俺、木下さんのこと好きです」

彼は私の髪を撫でながら話す。彼の表情は見えない。

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