大学生をレンタルしてみた
「失礼します」

並んだ声が静かな廊下に響いた。
風間さんと私は顔を向けると、橘教授の部屋から二人の男子学生が出てきたところだった。彼らはドアを閉め、二人顔を向け合って「まずいわ」「やばい」と顔をしかめながらこちらに向かって歩いてきた。

何かやらかして教授に謝りに来たのは分かった。

橘教授のゼミは人数が多く、経済学部ではかなり有名だ。

右側の学生が脱いでいたニットキャップを被り直しながら、ふと私の方を見た。私もつられるように彼の顔を見る。

あれ。この顔。

「あ」

彼が大きく目を見開き口をあんぐりと開けた。

「あ」

私はすぐに目を逸らし、台車を押すスピードを速める。

「晴人、どうした、知ってる人?」

隣を歩いてた男が彼に話しかける声がした。

あれ、彼の名前何だったっけ。

目眩の中、私はほんのりと思い出す。

「奏弥」。
間違いない、金曜の夜に会った奏弥だ。

待ち合わせに来た時、被っていたあのニットキャップ。

「都内大学に通う学生」と彼は言っていた。
少し滑舌が悪く、癖のある声。

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