大学生をレンタルしてみた
夜は丸の内のフレンチレストランを予約していたから移動する。晴人がいつになく緊張した面持ちを見せていた。

「大丈夫?」

席に着いて向かいに座る晴人に声を掛ける。

「大丈夫、大丈夫」

そう言って笑いをこらえてみせる。

「俺、こう見えてまあまあお坊ちゃんだからこういう店慣れてるのよ」

これはあながち嘘ではないらしく、今までバイトを頑張らなくてもお金に困ったことがそんなにないと前も言っていた。

中学校から一貫して私立なのだから余裕はあるのだろう。

ほろ酔いになったところで静かに晴人が切り出した。

「椎果ちゃんはどのくらい結婚のこと考えてるの」

唐突な質問に思わずナイフとフォークを置いてしまった。結婚なんて大学3年生の学生にとっては遠くて重いテーマなはずだ。私は敢えてずっと避けてきていた。

彼とは結婚に至らないかもしれない。
私は結婚できないかもしれない。

それでも今のこの幸せを優先した。

「まだ私たちそこまで考えるほど長く一緒にいないし」

私の回答を聞いて、2回ほど頷く。
「俺はね」と口を開いた。

「椎果ちゃんだったらいいなと思ってるよ、いつになるか分からないけど」
「なんで」
「ちゃんと仕事頑張ってるの見てきてるし、そんな専業主婦とか難しいかもしれないし贅沢な暮らしも無理だろうけど、このままずっと一緒にいれたらちゃんと考えたいなって思ってるよ」

なんで私にわざわざ言ってくれたんだろう。きっと21歳なんてまだまだ遊びたいはずだしまだ知らない世界がたくさん広がってるのに。

< 50 / 56 >

この作品をシェア

pagetop