嘘つき運命ごっこ


胸を借りて、その場で泣き腫らして、我に返ったら途端に恥ずかしくなった。


「……すみません……、なんか、わたし……」

「ちょっとはスッキリした?」

「はい……」


ちょっとどころか、大分。

初めて男の人の前で、いっぱい泣いてしまった。

視界がせまいのは、きっとまぶたが腫れているから。

絶対ブスだ。
見られたくないな……。

そんな気持ちが先行して、うつむき加減になってしまう。

学さんはもう一度私の頭にポンと優しく手を置いて、一階へと続く階段へ向かう。

「言い忘れてた」

そして、階段の途中で振り向き、上目遣いが私を見た。


「おかえり」


聞き間違えかと思うくらいの、小さな声。


でも、耳が少し赤く見えるのは、見間違えじゃない。


「た、ただいま!」


初めての「おかえり」が嬉しくて、顔が熱くなる。


目をこすりながら部屋に入り、かばんから荷物を出していると、スマホにメッセージの通知があった。
< 112 / 261 >

この作品をシェア

pagetop