嘘つき運命ごっこ
「おかえりなさい……っ!」


勢いをつけすぎて、ぶつかりそうになったその人は、頭で思い描いていた人物ではなかった。

学さんが、面食らった表情で目を見開いている。


「え、あ、ま、学さん?お、おかえりなさい!濡れてないですか?」

「ああ、うん……」


胸に飛び込みそうになったことが恥ずかしくて、早口でまくし立てる。

肯定した通り、彼の右手にはビニール傘が握られていた。

うちにはビニール傘は無かったはずだから、どこかコンビニででも買ったのかな。


「涙……」

「え?」


学さんが、私の顔を見て何かを言いかけた、その時。

ドアを閉める直前に夜空がピカッと光って、空から電気が落ちるのが見えた。


「きゃあ!?」
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