嘘つき運命ごっこ
学さんはまだ慣れていないうちの間取りを、暗い中、私の声を頼りに部屋に進む。

二階に上がり、私の部屋の隣まで。


「あんたはちょっと廊下で待ってて」


と、ドアを開ける後ろ姿にムッとして、私は口を開いた。


「……芙結です。学さん」

「え?」

「私、芙結っていうんです。……家族には、名前で呼んでほしい」


恋じゃない、まだ。

好きなわけじゃない。

いくら、赤い糸が繋がっていたって。


でも、あなたはきっと運命の人だから。


学さんは難しい顔で頭を掻き、部屋に入った。


「あ」


逃げられた。


他の家族はいらないと言った直後に、私に家族呼ばわりされたって嫌だったかもしれない。

学さん自身も、母親の再婚自体を良くは思っていない。

でも私だって、ずっと「あんた」呼ばわりされるのは嫌だ。

ぷくっと頬を膨らませ、閉まったドアを睨んだ。

……その時。


「芙結」


小さな小さな声で、聞き慣れない名前が届いた。
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