兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
 骨の折れる鈍い音がすると共に、清隆の拳によって吹き飛ばされた誠一は壁にもたれかかり、うめき声を上げる

「お前……俺の雪乃に触れたな」

 清隆は鍛え上げられた身体を使い、誠一を締めあげた。泡を吹いた彼は泣きながら許しを請うけれど、憤怒の形相をした清隆の怒りは収まらないのか、誠一の頬を二度、三度と打つ。

「やっ、やめてっ! そんなことしたら、死んじゃう」

 いくら破落戸だといっても、村長の息子を殺してしまえば清隆の未来はない。雪乃は必死になって叫ぶと、清隆は振り上げていた手を止めた。

「こんな根性の腐った奴は、生きている価値なんてない」
「でもっ、村長の息子だからっ」
「だからだっ! 雪乃……あいつに何を言われたか知らんが、騙されるなっ!」

 怒気をはらんだ目で誠一をねめつけると、清隆は玄関の外に投げ飛ばした。引き戸を閉じると、ようやく家の中に静寂が戻る。

「雪乃」

 軍服のまま清隆は近寄ると、雪乃の腕の縛りを解いた。はだけていた着物の前をあわせると、言葉を失くして引き寄せる。

「あ……あなたっ……っ」

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