兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
「戦場で偉い人を庇ったんだ。その時に腕と度胸を見込まれて……少し階級が上がった」

 菊の模様の下に一と刺繍されている。清隆の説明では、伍長といって下士官になったという。将来を見込まれた証だった。

「雪乃には苦労させたくないから、もっと上を目指すつもりだ」
「でも……怪我なんかしないでね」

 軍にいれば厳しい訓練が課される。それを厭うようでは、上を目指すことはできない。だがそんなことはおくびにも出さないで、清隆は口の端をそっと上げただけだった。

「今日はここで休もう」

 都にいく街道沿いにある旅籠は、こぢんまりとしているが居心地の良さそうな建物だ。温泉が湧き、湯が豊富にあるという。

「雪乃、馬に乗り疲れただろう。先に湯を浴びよう」
「はい」

 部屋に入った途端、くつろぎ始めた清隆は軍服の釦を外していく。上着を脱ぐと、屈強な体躯には無数の傷痕がついていた。カチャリと音をたててベルトを外し、ズボンを脱ぐと縦おりのしじら柄の浴衣を羽織る。

 雪乃も旅装を解くと白地に朝顔の模様のついた浴衣を選んだ。紫の兵児帯を締めたところで、後ろから手が伸びてくる。

「あなた?」
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