兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
 雪乃が十六になろうとした年に、村では疫病が流行る。雪乃の両親は二人とも、あっという間に亡くなってしまった。兄弟はなく、家族を失くした雪乃は途方に暮れてしまう。

 母親から習った機織りの腕があったとしても、貧しい村では生きていけそうにない。

 名前の通り、雪のように白い肌に艶やかな黒髪。大人しく伏し目がちな様子は少女とはいえ、どこか匂い立つ色香をまとっている。村の子ども達を集めた学び舎では、真面目な器量よしとして目されていた。

 まだ幼さは残るけれど、木綿の着物姿からは女らしい曲線が垣間見える。働き者で控え目な雪乃に、嫁に来て欲しいと思う男衆は多かった。

 葬儀の間、母親のものだった喪服を着た少女を眺める者は多い。けれど遠縁の清隆が常に雪乃の傍にいて、何くれとなく世話をしている。他人が入り込む隙はなかった。

「清兄さん……葬儀のこと、ありがとう」
「大変な時はお互い様だ」
「でも……この家も……もう出ないと」

 両親と暮らした家は、清隆の父のものだった。親戚の情けで住まわせて貰っていたけれど、雪乃が一人となった今、ここで暮らしていけるほど稼ぐことはできない。

< 2 / 22 >

この作品をシェア

pagetop