兵士となった幼馴染の夫を待つ機織りの妻
 清隆がこの家を出てから三年。時折届いた便りもここ一年は音沙汰がない。村長の話では、彼は旧藩主の娘に見初められたという。

 雪乃は髪につけていた飴色の髪飾りに手を伸ばした。使い込まれ鈍く光る櫛型の飾りは、清隆にもらった贈り物だ。しばらく留守にするからと、奮発して行商人から買ってくれた櫛飾り。

 これだけは、持っていたい。

 最後に一目でも会いたかったけれど、村長からは止められている。

 夏が始まる頃、雪乃の家に立ち寄った村長は、清隆が村に帰る日を伝えた。そして、旧藩主の娘と祝言を上げるために別れて欲しいと頭を下げた。

 清隆と別れるなんて――現実のことと思えない。けれど、彼には村の存亡がかかっているという。

「村長、……本当ですか?」
「すまんな、雪乃。藩主様から睨まれると、この村は生きていけん。清隆もよくわかっているはずだ」

 彼のこれからを思えば、機織りしかできない女と別れ、かつての藩主の娘のところへ婿入りした方がいい。夫婦として過ごした期間は一年もないし、子どもがいるわけではないだろう――と村長が言う。

 雪乃は俯くと浅く息を零した。

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