追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「な、リティカ様は」

 どう見たって食べかけじゃないじゃないと肩を震わせたライラちゃんに、

「ライラ、黙りなさい。序列が分からない子は嫌いですよ」

 私はそう言って口を封じる。まだ立場の弱いライラちゃんに庇わせてはいけない。そうでなければ、悪い人間(わたくし)を庇い立てする彼女は、あっという間に不満を持て余した貴族達の暇潰しに使われる。
 学園生活とは社交界の縮図。コレからを担う次代の人間が集い、駆け引きや立ち振舞いを学び、人脈を築く戦場だ。
 ライラちゃんにはまだそれが理解できていない。彼女を王太子妃として望むなら、私は責任持って王妃教育を施さなくてはならない。
 それは王子ルートを望んでしまった私の責務だと思うから。

「まぁまぁ2人とも落ち着いて」

 しょんぼりしてしまったライラちゃんと私の間ににこにこと優しげな笑みを浮かべて割って入ったロア様が、

「ライラも疲れただろうし、軽食を摂るといいよ」

 そう言って食事を勧める。
 ロア様はライラちゃんの手にあるプレートに目をやり、ふむと頷く。

「チョコレートケーキにマカロン。あとは一口サイズのオードブル、か。肉類多いな、普段のリティカが食べないものばかりだ」

「……そういう気分だったのです」

 ロア様がこの件を追求してくるとは思わず、私は思わず目を逸らす。

「ふーん、まぁリティーがそういうなら、それでいいんだけど。ライラ用ならあっちの肉の方が喜んだんじゃない?」

 アレとロア様が指したのは割とガッツリめのステーキ。

「わぁ、超美味しそう」

 そちらに視線を向けたライラちゃんはとても目を輝かせ今にも走り出しそうだ。

「いけません」

 そんなライラちゃんに私はスパッと待ったをかける。
 ステーキはオーダーが入ってから好みの焼き加減に仕上げてくれるまぁまぁ手間と時間のかかる代物だ。
 お肉は当然切り分けてはもらうけど、今のライラちゃんだとソースをドレスに溢したり口元につけたまま行動しそうだし。
 それに何より。

「このあと挨拶周りもあるのにそんな時間かかるもの食べさせられるわけないじゃないですか。ライラは精霊祭からぶっ通しで休む暇もないのですよ? 少しでも食べないとこのあと持ちませんよ?」

 夜会に慣れているロア様にそれが分からないわけがないのにと思いながら小さな声でロア様にだけ聞こえるように答える。
 が。

「リティカ様! 私のためにそこまで考えて」

 ぱぁぁぁーと顔を明るくしたライラちゃんがプレートをロア様に押し付けて私に抱きつく。
 聴力めちゃくちゃいいなと感心しつつ。

「ダメだと言っているでしょうが、この頭は脳みそ空っぽですか」

 言葉とは裏腹につい抱き止めてしまう。
 だって! だって!! 
 推しがっ! 私の可愛い推しが素敵ドレスでファンサーを!!
 これを突っぱねろって無理じゃない?
 甘やかすしかなくない!?
 供給過多で倒れそうなんだけど。
 
「ははっ、聖乙女とリティカは随分仲良しみたいだ」

 周りのざわめきとロア様の言葉に私ははっと我に返る。

「時間のない主役のために、わざわざ会場内を回って的確に食べやすい物を取り置きしてくるなんて。清らかな心根を持つ聖乙女ならそれは感動して抱きついてしまっても仕方ないよねぇ」

 にこっとロア様が天使のように微笑めば各所で被弾した淑女の黄色悲鳴が上がる。

「気が利くね。さすが私の婚約者だ」

 否定しようとした私の思考が飛ぶほどに素敵な王子様スマイル。
 はぅわぁぁぁぁ。神々しい。多分ライラちゃんが抱きついてなかったらロア様撮影会始めてたわ。
< 105 / 191 >

この作品をシェア

pagetop