追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
45.悪役令嬢と家族会議。
魔法はとても便利だけど、ただ無心に自分の力だけでお菓子を作る時間が私は好きだ。
まるで科学の実験みたい。
魔力を使って何かを生成する事には失敗してしまう私だけど、6年間エリィ様に料理を習って分かった事がある。
すでに魔道具に組み込まれた魔術式を含め、私自身が一切魔法の類に触れなければ私の手でも何かを作り出す事はできる、ということ。
まぁ初めは本当に丸コゲの何かしかできなかったから、これも全部エリィ様のご指導のおかげなんだけど。
「わぁ、リティー様。綺麗に焼けましたね」
とっても美味しそうですよと褒めてくれるエリィ様に、
「でしょ? なのにお兄様は胃薬準備しようとするんです。酷いでしょ?」
お兄様が酷いから本気出しちゃいましたよと先日の出来事を思い出して頬を膨らませる私。
「それはあえて魔法を調理に組み込もうと挑んだ挙句失敗した品ばかり差し入れるリティー様にも原因がある気がしますけど」
本当は上手にできますのにと微笑むエリィ様は、ラッピング用の袋を用意してくれる。
「食べ物を無駄にしたらダメかなって。なんやかんやでお兄様と師匠もらってくれるし」
本当にマズイ奴は外してますよ? と肩を竦めながら、苦笑した私はスイを呼ぶ。
「きゅゆゆー」
元気よく飛び出してきたスイに、私はアップルパイの切れ端を差し出す。
だが、アップルパイをチラッと見たスイはそれを取り込まず丸まってしまった。
「いらないの? スイ」
「きゅー」
思ってたのと違ったとばかりに残念そうな声を上げるスイに、クスッと笑った私はいつも通り生成に失敗したポーションを差し出す。
「きゅきゅ!!」
あるならさっさと出せよとばかりに抗議の声を上げたスイは、すぐさまそれに身体を伸ばし吸収をはじめる。
「まぁでも、お菓子作りに成功しちゃうとスイが反応しないんですよね」
「本当、不思議ですね」
とエリィ様は首を傾げる。スイは一度私の手を経たエリィ様の作ったお菓子は食べる。だが、私の成功したお菓子は食べない。失敗したお菓子ならポーション同様取り込みたがるけれど。
「まぁ、一応仮説は立ってるんですけどね」
繰り返してきた実験で積み上がったデータ。それを元に立てた仮説。
「本当ですか? 聞きたいです!」
「ふふ。まだ内緒、です。検証はこれからなので」
私はスイを抱き上げて肩に乗せるとそう言ってエリィ様に微笑む。
本来のゲームにはなかったスイというエラー。
繰り返し夢を通して様々なストーリーを渡り歩いた私が弾き出した心当たりは一つだけ。
「そうですか。では、いつかぜひお聞かせくださいね」
エリィ様は深く追求する事はなく、いつも通り優しく微笑む。
「いつでも、私達はお待ちしていますから。リティー様なら大歓迎ですよ」
師匠とは違った優しさで、いつも迎えてくださるエリィ様。
私は何度も何度も彼女に救われてきた。
もし、私のお母様が生きていてくれたならこんな感じだったのだろうか?
一緒にお菓子を作って。
お茶を入れて。
お父様とお兄様と4人で。
ああ、少し焦げちゃったねなんて笑い合いながら。
何気ない休日を過ごしたりしたのかしら?
「リティー様? どうしました?」
エリィ様の声ではっと私は我に返る。
「大丈夫ですか? もしかして、ご気分が優れないとか」
心配そうにこちらを覗き込むエリィ様に私はそっと首を振る。
「……いいえ、ただ"そうだったらよかったのにな"を考えてしまっただけなのです」
でも、現実はそうではないから。
「さて、美味しいアップルパイも出来たところで、家族会議してきますわ」
私は夢ではなく、今を生きるのだ。
まるで科学の実験みたい。
魔力を使って何かを生成する事には失敗してしまう私だけど、6年間エリィ様に料理を習って分かった事がある。
すでに魔道具に組み込まれた魔術式を含め、私自身が一切魔法の類に触れなければ私の手でも何かを作り出す事はできる、ということ。
まぁ初めは本当に丸コゲの何かしかできなかったから、これも全部エリィ様のご指導のおかげなんだけど。
「わぁ、リティー様。綺麗に焼けましたね」
とっても美味しそうですよと褒めてくれるエリィ様に、
「でしょ? なのにお兄様は胃薬準備しようとするんです。酷いでしょ?」
お兄様が酷いから本気出しちゃいましたよと先日の出来事を思い出して頬を膨らませる私。
「それはあえて魔法を調理に組み込もうと挑んだ挙句失敗した品ばかり差し入れるリティー様にも原因がある気がしますけど」
本当は上手にできますのにと微笑むエリィ様は、ラッピング用の袋を用意してくれる。
「食べ物を無駄にしたらダメかなって。なんやかんやでお兄様と師匠もらってくれるし」
本当にマズイ奴は外してますよ? と肩を竦めながら、苦笑した私はスイを呼ぶ。
「きゅゆゆー」
元気よく飛び出してきたスイに、私はアップルパイの切れ端を差し出す。
だが、アップルパイをチラッと見たスイはそれを取り込まず丸まってしまった。
「いらないの? スイ」
「きゅー」
思ってたのと違ったとばかりに残念そうな声を上げるスイに、クスッと笑った私はいつも通り生成に失敗したポーションを差し出す。
「きゅきゅ!!」
あるならさっさと出せよとばかりに抗議の声を上げたスイは、すぐさまそれに身体を伸ばし吸収をはじめる。
「まぁでも、お菓子作りに成功しちゃうとスイが反応しないんですよね」
「本当、不思議ですね」
とエリィ様は首を傾げる。スイは一度私の手を経たエリィ様の作ったお菓子は食べる。だが、私の成功したお菓子は食べない。失敗したお菓子ならポーション同様取り込みたがるけれど。
「まぁ、一応仮説は立ってるんですけどね」
繰り返してきた実験で積み上がったデータ。それを元に立てた仮説。
「本当ですか? 聞きたいです!」
「ふふ。まだ内緒、です。検証はこれからなので」
私はスイを抱き上げて肩に乗せるとそう言ってエリィ様に微笑む。
本来のゲームにはなかったスイというエラー。
繰り返し夢を通して様々なストーリーを渡り歩いた私が弾き出した心当たりは一つだけ。
「そうですか。では、いつかぜひお聞かせくださいね」
エリィ様は深く追求する事はなく、いつも通り優しく微笑む。
「いつでも、私達はお待ちしていますから。リティー様なら大歓迎ですよ」
師匠とは違った優しさで、いつも迎えてくださるエリィ様。
私は何度も何度も彼女に救われてきた。
もし、私のお母様が生きていてくれたならこんな感じだったのだろうか?
一緒にお菓子を作って。
お茶を入れて。
お父様とお兄様と4人で。
ああ、少し焦げちゃったねなんて笑い合いながら。
何気ない休日を過ごしたりしたのかしら?
「リティー様? どうしました?」
エリィ様の声ではっと私は我に返る。
「大丈夫ですか? もしかして、ご気分が優れないとか」
心配そうにこちらを覗き込むエリィ様に私はそっと首を振る。
「……いいえ、ただ"そうだったらよかったのにな"を考えてしまっただけなのです」
でも、現実はそうではないから。
「さて、美味しいアップルパイも出来たところで、家族会議してきますわ」
私は夢ではなく、今を生きるのだ。