追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
 この世界にも四季があるので、一応果物にもお花にも旬はあるけれど、魔法文化の発展しているこの国では天然物や希少価値の高いものでなければ大抵の食材は手に入る。
 だからお庭に咲き乱れる遅咲きのチューリップを眺めながらアップルパイを食べる、なんて事もできるんだけど。

「ああ、嬉しいね。リティカが私のためにアップルパイを作ってお茶を淹れてくれるだなんて」

 ニコニコと笑顔を浮かべてまだ一口も食べていないアップルパイを大絶賛しながらお茶を飲むお父様と、始終無言のお兄様。
 何この重っ苦しい雰囲気。
 お茶会とはもう少し楽しいモノのはずなのだけど、と普段のロア様とのお茶会の違いに苦笑してしまう。
 まぁ、このメンツで一家団欒なんてやったことないのだから無理もない。
 私はロア様から頂いたお茶を飲みながら、この異様な光景に苦笑する。

「アリシアもね、よくお茶を淹れてくれていたんだ」

 ほわわーんとした表情を浮かべ、私にだけそう話しかけるお父様。

「それは、魔法省名物ビーカー入り薬草茶の事でしょうか?」

 魔法省名物ビーカー入り薬草茶、とは寝食を忘れた締切前の魔術師達が時間に余裕がない時にとりあえず自分を追い込むために飲むアイテムである。
 よく師匠やその部下が飲んでいる。
 ちなみにお茶は美味しく飲みたい派の私はやった事がない。
 そもそも私は何かを魔法で生成するのにはどうも向いていないようだし。

「そうそう、懐かしいなぁ。疲労回復効果のありそうな薬草を適当にビーカーにぶち込んで。実験室の机に勝手に座って"美味しくなーい"って文句を言いながら」

 アレは手軽そうに見えてもそれなりに訓練がいるんだよ? とお父様はここではないどこかを見つめながらそう言った。
 師匠が作るのを見ていたから知っているけれど、そうだろうなと私は自分の紅茶を飲みながら思う。
 ビーカーなんかで飲んでいるからズボラで適当に見えるけど、薬草の成分を抽出できる温度に水を温める必要があるし、そもそも空気中から水を生成しなくてはならない。
 そこにはいくつもの魔法が重ねてかけられ、それらを正確に再現するにはかなりの訓練が求められる。

「そう言えばお兄様はやりませんね」

 ふと気になってずっと黙ったままのお兄様に話題を振れば、

「そもそもビーカーは茶器じゃない」

 短い答えが返ってきた。
 討伐やアイテム採取に出向けば野営だってこなすのに、変なとこでお兄様の育ちの良さを感じてしまう。
 隠しきれない気品。
 やはりこれは攻略対象だからなのかしら、などとお兄様の憂い顔を見ながらそんな事を考えた。
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