追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「あ、ではお兄様もスーツを新調なさっては? お兄様も式典に参列されるのでしょうし」

 せっかくかっこいいのだから、お兄様の衣装にはもう少し色味があったっていいと思うのに、お兄様の正装はほとんど黒ばかり。

「別に、足りている」

 素っ気ない返事をするお兄様に、

「セザール、新調しておけ。お前も壇上に上がる事になる」

 先程までとはまるで違う口調で、お父様はようやくお兄様に言葉を向けた。

「セザール、お前にも星が授与される。受けなさい」

 おめでとう、の一言もなく。
 まるで、命令でも下すかのように淡々とした口調。

「拝命いたします」

 それに対して慣れた様子で淡々と受けるお兄様。
 めでたい事のはずなのに。
 なんで、この2人の間の空気はこんなにも冷たいんだろう。
 いつもの事だけど、2人のやり取りを見ていると胸の奥が痛くて苦しい。

「お兄様! おめでとうございます。未成年での星の授与だなんて。それこそ数えるほどしかいない快挙ではありませんか」

 パチンと手を打って私は明るくそう言って笑う。

「ああ、そうだな」

 だけど、お兄様の態度はこわばっていて。

「お兄様ならあっという間に星3つ達成してしまうかもしれませんね! お母様みたいに」

「……だと、いいけどな」

 私と2人でいる時とは比べ物にならないくらい冷たい。
 それが、すごく悲しい。

「きっと、きっとできます! なんならお母様の記録だって塗り替えちゃうかも」

「はは、無理に決まっている」

 私の言葉を遮ったその声は背筋が凍るほど冷たい響きを持っていた。

「お父様?」

「アリシアを超える? 無理だ。彼女は1000年に一人の逸材だ。アリシアを超えるモノなど現れるわけもない」

 これはお父様の地雷。

「アリシアはセザールの年にはすでに星を2つ持っていた。彼女は星3つ所持者の最年少ホルダーだ。これから先もずっと」

 冷たい口調で語る決定事項。
 だけど、私にはお父様が泣いているように見えた。

「お父様、お兄様の事ちゃんと見えていますか?」

「この話は終いだ」

 そう言ったお父様は一気にお茶を飲んだあと、

「ああ、そうだ。チューリップが見頃だしリティカのために花束にして贈ろうね。リティカはアリシアと同じでチューリップが一番好きだし」

 部屋の花を色とりどりのチューリップに変えようかとまるでいつもと変わらない私にベタ甘のお父様の態度に戻った。
 お父様の目には、お兄様は映らず。
 お兄様は、すでに全部を諦めて。
 私は所在なく2人の間で視線を彷徨わせる。
 歯車が全く噛み合わず、家族という枠に無理やり当てはめただけの寄せ集めの人材。
 それが、我が家の実情だ。
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