追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。

47.悪役令嬢は反撃する。

 私は乾いた唇を湿らせるように少し冷めてしまったお茶をゆっくりと飲む。
 ふわりと桜の優しい香りに、ほっとして緊張が緩む。
 大丈夫、と背を押された気がして、私は勇気を振り絞る。
 いつもみたいに、言いたい事を言いたい放題言うだけ。
 戦わなければ、勝ち負けもないのだから。
 私は空色の瞳を瞬かせると、淡々とした口調で言葉を紡ぐ。

「私、本当は菫色(バイオレット)より青と白かピンクのバイカラードレスの方が好き」

 菫色(バイオレット)のハイネックドレスはお母様が好んで着ていたドレス。
 それは、私の戦闘服じゃない。

「私は、徹夜明けに飲む苦めのコーヒーにミルクを垂らすより、蜂蜜入りのホットミルクの方が好き」

 いくら大人の真似をして背伸びをしても、苦いモノはまだ苦手。
 もっと言えば生クリームたっぷりの甘い甘いお菓子みたいな飲み物のほうが好き。
 お母様の好みとは違って。

「私は、チューリップより桜を愛でる方が好き」

 一面を彩るチューリップも素敵だけど、地面に寝転んで見上げる満開の桜が好き。短い命を散らすその潔さも含めて。

「……リティカ?」

 お父様の紫暗の瞳が困惑を浮かべて私を捉える。

「私は……通常の生成式の発動すら難しい私には、どれだけ頑張ったとしても魔法でビーカー入り薬草茶は作れない」

 その思い出を再現することは不可能だ。
 それは、お父様とお母様だけのもの。

「私は、凡庸なのです。魔法省の最前線で画期的な魔術式をいくつも紡ぎ魔法文化を発展させたお母様とは違って」

 私は、お母様とは違うのだ。
 どれだけ、容姿が似ていたとしても。

「いくら容姿が似ていても、私はアリシア・メルティーではありません。私は、リティカです。私の本質がお父様に似ている事はお父様が一番よくご存知でしょう?」

 お母様の好きなモノを好きだというとお父様が喜ぶから。
 だから私はそれをあえて選んできた。
 でも、それはもう終わりにしなくては。

「そして、お母様によく似ているのはお兄様の方。だから直視できないのでしょう? あまりにもお兄様が紡ぐ魔法がお母様に似て美しいから」

 お母様は優れた魔術師だった。
 今だにその恩恵をこの国は受けているし、彼女の打ち立てたその記録は今だに破られていない。
 破られては、いけないのだろう。
 お父様にとっては。
 怖いのだ。魔術師アリシア・メルティーの名が、過去の遺産として埋もれてしまうのが。
 だから、その可能性が一番高いお兄様に冷たい。お母様の偉業を脅かす存在だから。
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