追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「でもね、お父様。いくら似ていたとしても、お兄様が非凡な魔術師であったとしてもやっぱりお兄様はお兄様なんです」

 もう、終わりにしませんか? と私は静かにお父様に問いかける。
 本当は、お父様だって分かっているはずだ。
 私達はお母様の存在を揺るがす敵ではない、と。

「はは、リティカ。バイカラードレスより紫色の単色ドレスの方がその髪にはよく映えるとパパは思うよ」

 何も変わらない貼り付けたパパの仮面(にこやかな笑顔)
 ……あー、そうですか。ここまで言ってもまだ歪な家族ごっこをお父様はご所望か。
 私の言葉は届かなかった、と私は悟る。

「お父様の、分からず屋っ!」

 きっとこうやって何度も何度もぶつかって絶望して。
 そうしてお兄様は諦めた。

「リティカ、もういい」

「よくありませんわ! これはお兄様だけの問題ではないのです」

 最後通告は行った。
 こうなったら全面戦争よ。私は今日決着をつけると決めている。

『あの人、片付け下手だから。手伝ってあげてね。できるだけ派手に♡』

 それはいくつも夢を渡り歩いた時に垣間見見たお母様のセリフ。
 死の少し前にまだ幼いお兄様の頭を撫でながらしたお母様からの最期の頼み事。

お兄様(セザール)ルートは未プレイだから、答えに辿り着くまでに随分時間がかかっちゃったわ」

「リティカ? お前、何言って」

 私はニヤリと悪役令嬢らしく黒い笑みを浮かべる。
 きっとセザールルートでのライラちゃんとのイベントストーリーなら、お兄様らしくもっと知的にクールにイベントクリアをこなしたのだろうけれど。

「じゃ、まぁ。派手にやりましょうか? お母様のお望み通りに」

 生憎と私は悪役令嬢なので、私らしいやり方でやらせてもらおうと思う。

「"爆ぜろ"」

 私がパチンと指先を鳴らすと2階の角部屋、つまりお母様の自室が盛大な音を立てて燃え始めた。

「なっ!?」

「……!!!?」

 2人は息を飲み言葉を失くす。
 お母様が亡くなって以降、開かずの間となっているその部屋。
 状態保持の魔法がかけられ、まるで時が止まったかのようなそこが、魔法陣を破られたことであっという間炎に飲み込まれていく。

「やめなさい、リティカ」

 お父様の制止など元々聞くつもりはない。

「全てを無に帰す弔いの炎よ! "燃やし尽くせ"」

 私はお父様の叫び声を無視してありったけの魔力を込めて詠唱する。
 火力が上がり、爆破音が響き渡る。
 私が自分の足りない魔力の底上げとして使っているのはロア様から頂いた宝石に宿る彼の魔力なのだから当然だ。

「ああー、アリシア!!」

 お父様の悲痛な声と共に、お母様の部屋はお父様が消火するより早く焼け落ちた。
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