追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「……これ、は?」
『あの人、片付け下手だから。手伝ってあげてね。できるだけ派手に♡』
と言ったお母様のイタズラでもするかのような顔を思い出しながら、
「きっと、あると思ってました」
と私はお兄様に答える。
「愛している人を遺して逝くと分かっていて、お母様が何も残さないなんて有り得ないもの」
蝶はふわりふわりと舞い降りて、私の掌の上で封筒に変わる。
「……アリシアは、幸せだっただろうか?」
「さぁ、私はお母様ではないので分かりかねますが。病床の折にこれだけ何十通とラブレターを認めるくらいには、お父様の事を愛していたのではないかと」
『愛しているの』
と夢で見たお母様の光景を思い出す。
「まぁ、早く見つけてよ、くらいの文句は書いてあるかもしれませんね。お母様の事ですから」
「リティカ、お前はアリシアの事など覚えてなどいないだろう」
「覚えてはいませんが、知ってはいます」
ゲームのデータとしては勿論だけど。
「お父様、自分で思っている以上に惚気てますから」
私はお父様を通して、お母様の為人を知っているのだ。
娘として直接お母様と言葉を交わす事は、できなかったけれど、それでも私もお母様に愛されていたのだと信じられるほどに。
私はアリシア・メルティーという人を知っている。
「そう、か」
独り言のようにつぶやいたお父様は私の頭をゆっくり撫で、頬に触れてすまないと謝った。
全く、レディの顔に傷をつけるなんてと本来なら激怒ものだが、想定内なので今回は許してあげる事にする。
少し力が戻ってきた私はお兄様の手を借りて立ち上がる。
それにしても随分沢山の手紙と感心しながら眺めていると、
「リティカ」
お父様が期待に満ちた眼差しで私に手を差し出した。
「何ですか、その手は?」
お父様の差し出した意図を分かっていて、私はあえてそう尋ね返す。
「いや、手紙を貰おうかと」
想定通りのセリフに、
「え? あげませんよ? だってコレ見つけたの私ですし」
は? ただで読めると思ってんの? と私は悪い笑みを浮かべる。
「先程言ったでしょう? リティカは絶賛反抗期なのだ、と。私、コレを人質に家出しますわ」
うん、もう大丈夫そうと身体の感覚を確かめ、私は手紙をマジックバッグに全部仕舞う。
「は?」
「リティカ! お前、何言って」
私の唐突の宣言に動揺するお父様とお兄様。
まぁそっくりですこと、と2人を眺めた私は、
「まぁ、お父様には言いたい放題言ったのでいいとします。が、お兄様もお兄様です。面倒だからと対話を放棄して妹に放り投げるなど兄のやる事ですか!」
そんなヘタレな男に育てた覚えはないと私は一喝する。
「そんなわけで、2人が態度を改めて関係を改善させる具体策を提示するまで私お家に帰りませんので」
腹を割って話し合いなさいと男2人に笑顔で命令すれば、
「リティカ、冷静に話し合おう。そうだ、これから商会でも呼んでお父様とショッピングでもどうだい?」
お父様はご機嫌とりに走り、
「リティカ。友達ゼロのお前に行く先なんてないだろう」
お兄様はそんな失礼な物言いで私を止めようとする。
こう言ってはなんだが、私は今までだって何度も家を抜け出して、様々な謀をしている。とはいえ2人共仕事に夢中で私の行動に気づいていないけれど。
「ふふ、ヤダわ2人とも。これは決定事項です」
と言った私になお食い下がりそうな気配を感じ、私はこれみよがしにため息を吐いて。
「全く、大の男が揃いも揃ってぐじぐじウジウジメソメソと。いいっ加減になさいませ」
次はお二人の部屋燃やしますよ? と笑顔で脅す。
10年以上私を間に置いて話していたのだから、急に2人でと言われたところでどうすればと戸惑う気持ちも分からなくはない。
だけど、追放予定の私はいつまでもこの家にはいないのだ。
だからこそ、今しかないと心を鬼にした私は。
「今までの事も含めて、今後の事をお二人でよく話し合ってくださいませ。でなければ、私はこの家に戻りません。話し合いを放棄して追ってきたら手紙は永遠に手に入りませんよ?」
改めてそう宣言し、2人を置き去りに馬車乗り場へと足を向ける。
数歩歩いたところで、あっと本日の裏目的を思い出した私は、
「あ、アップルパイ残したら承知しませんから」
あまりの美味しさにぎゃふんと言うがいいわと悪役令嬢らしく捨て台詞を残して、公爵家を後にした。
『あの人、片付け下手だから。手伝ってあげてね。できるだけ派手に♡』
と言ったお母様のイタズラでもするかのような顔を思い出しながら、
「きっと、あると思ってました」
と私はお兄様に答える。
「愛している人を遺して逝くと分かっていて、お母様が何も残さないなんて有り得ないもの」
蝶はふわりふわりと舞い降りて、私の掌の上で封筒に変わる。
「……アリシアは、幸せだっただろうか?」
「さぁ、私はお母様ではないので分かりかねますが。病床の折にこれだけ何十通とラブレターを認めるくらいには、お父様の事を愛していたのではないかと」
『愛しているの』
と夢で見たお母様の光景を思い出す。
「まぁ、早く見つけてよ、くらいの文句は書いてあるかもしれませんね。お母様の事ですから」
「リティカ、お前はアリシアの事など覚えてなどいないだろう」
「覚えてはいませんが、知ってはいます」
ゲームのデータとしては勿論だけど。
「お父様、自分で思っている以上に惚気てますから」
私はお父様を通して、お母様の為人を知っているのだ。
娘として直接お母様と言葉を交わす事は、できなかったけれど、それでも私もお母様に愛されていたのだと信じられるほどに。
私はアリシア・メルティーという人を知っている。
「そう、か」
独り言のようにつぶやいたお父様は私の頭をゆっくり撫で、頬に触れてすまないと謝った。
全く、レディの顔に傷をつけるなんてと本来なら激怒ものだが、想定内なので今回は許してあげる事にする。
少し力が戻ってきた私はお兄様の手を借りて立ち上がる。
それにしても随分沢山の手紙と感心しながら眺めていると、
「リティカ」
お父様が期待に満ちた眼差しで私に手を差し出した。
「何ですか、その手は?」
お父様の差し出した意図を分かっていて、私はあえてそう尋ね返す。
「いや、手紙を貰おうかと」
想定通りのセリフに、
「え? あげませんよ? だってコレ見つけたの私ですし」
は? ただで読めると思ってんの? と私は悪い笑みを浮かべる。
「先程言ったでしょう? リティカは絶賛反抗期なのだ、と。私、コレを人質に家出しますわ」
うん、もう大丈夫そうと身体の感覚を確かめ、私は手紙をマジックバッグに全部仕舞う。
「は?」
「リティカ! お前、何言って」
私の唐突の宣言に動揺するお父様とお兄様。
まぁそっくりですこと、と2人を眺めた私は、
「まぁ、お父様には言いたい放題言ったのでいいとします。が、お兄様もお兄様です。面倒だからと対話を放棄して妹に放り投げるなど兄のやる事ですか!」
そんなヘタレな男に育てた覚えはないと私は一喝する。
「そんなわけで、2人が態度を改めて関係を改善させる具体策を提示するまで私お家に帰りませんので」
腹を割って話し合いなさいと男2人に笑顔で命令すれば、
「リティカ、冷静に話し合おう。そうだ、これから商会でも呼んでお父様とショッピングでもどうだい?」
お父様はご機嫌とりに走り、
「リティカ。友達ゼロのお前に行く先なんてないだろう」
お兄様はそんな失礼な物言いで私を止めようとする。
こう言ってはなんだが、私は今までだって何度も家を抜け出して、様々な謀をしている。とはいえ2人共仕事に夢中で私の行動に気づいていないけれど。
「ふふ、ヤダわ2人とも。これは決定事項です」
と言った私になお食い下がりそうな気配を感じ、私はこれみよがしにため息を吐いて。
「全く、大の男が揃いも揃ってぐじぐじウジウジメソメソと。いいっ加減になさいませ」
次はお二人の部屋燃やしますよ? と笑顔で脅す。
10年以上私を間に置いて話していたのだから、急に2人でと言われたところでどうすればと戸惑う気持ちも分からなくはない。
だけど、追放予定の私はいつまでもこの家にはいないのだ。
だからこそ、今しかないと心を鬼にした私は。
「今までの事も含めて、今後の事をお二人でよく話し合ってくださいませ。でなければ、私はこの家に戻りません。話し合いを放棄して追ってきたら手紙は永遠に手に入りませんよ?」
改めてそう宣言し、2人を置き去りに馬車乗り場へと足を向ける。
数歩歩いたところで、あっと本日の裏目的を思い出した私は、
「あ、アップルパイ残したら承知しませんから」
あまりの美味しさにぎゃふんと言うがいいわと悪役令嬢らしく捨て台詞を残して、公爵家を後にした。